Re: 短筆 1 (握った手、いつまでも離さないでいて) ( No.31 ) |
- 日時: 2007/03/30 23:46:34
- 名前: 玲
- 参照: http://yaplog.jp/yami-tuki/
- 家の近くにある公園の、ブランコの懐かしい感触に触れていたあたしは、ふと落としていた視線を上へ上げた。
「あ」 入口と書いてある古い看板の前をタイミングよく通り過ぎようとしていたのは、見覚えのある顔。 彼も私に気付いたようで、銜えていたアイスを落としそうになりながらあたしに声をハモらせた。
「久しぶりだね、少年」 「何してんスか、こんな所で。西城先輩は?」 「ああ、巧ね」 あたしは彼との婚約を破棄されたことを伝えた。 驚いたような表情をしていたから、色々脚色をつけて説明した。 そして唐突に、あたしは訊いた。 「キミは凄く逢いたい人がいたらどうする?」 「そんなの逢いに行くに決まってるじゃないっスか」 「簡単には逢えない人だったら?」 「そんな遠くに住んでるんスか、その人」 「……うん。凄く、遠いよ……」 そう、横に座ってる少年には言ったけど、本当は思ってるより近くにいた。 街で彼を見掛けた時は心臓が止まりそうになる程驚いたけど、心の底から嬉しく思った。 ……でも。 彼を見掛けたあたしは彼に声を掛ける事が出来なかった。しなかった。 笑顔で、彼の名を呼びたかったのに、あたしの中の何かがそうするのを引き留めた。 怖い。 それは恐怖。 彼に拒絶されることへの畏怖。 「でも先輩」 少年の声が聞こえる。 「本当の意味で逢いたいんだったら、逢いに行かなくても逢えるんじゃないっスか?」 「え、どういう意味?」 「そういう意味っスよ。あとは自分で考えて下さい。仮にもオレの先輩なんスから」 「仮にもって……酷くない? ……あ、そーだ」 仕返しに言ってやった。 「聖羅ちゃんとはどうなのよ」 「…………先輩、オレそろそろ帰りますね」 「あっ、逃げたーっ!」
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Re: 短筆 1 (握った手、いつまでも離さないでいて) ( No.32 ) |
- 日時: 2007/03/31 01:01:47
- 名前: Gard
- 参照: http://watari.kitunebi.com/
- 腰まである黒い長髪を首の後ろで括り、ニット帽を被ったトレーナーとジーンズの少年。
その耳には炎を象った銀製のピアス。
「……保科陸君、でいいんだよね?」 「…………沖山、永礼?」 「うん」
僕は彼に声を掛けた。 今僕は情報屋みたいなことをしている。それもこれも、一つの目的の為なのだけど。 陸君は僕の依頼主。ある少女を捜して欲しいと頼まれた。 同じ種族の彼の依頼だ。断ることは出来ない。その依頼を受け、僕はその少女を捜していた。 そして、今日はその結果報告って訳。
「えーっと、湊ちゃん、でいいんだよね?」 「ああ。……早くしてくれ」 「はいはい」
彼の黒瞳はなんの感情も移さない。ただ僕を見ている。 恐らく、あまり期待していないのだろう。
「じゃあ、ちょっと省くよ?」
そう言ってから、僕は彼の背後を指さした。 彼の背後には、駅前特有の人混みしかない。 訝しげに指の先を見つめる彼に苦笑し、僕はカウントダウンを始めた。
「3……2……1……」
ゼロ。 そう告げた瞬間、彼の探し人の姿が人混みの中に見えた。
「っ!」
瞬間、走り出す陸君。 どこにそんな力強さがあったんだろう、と思うぐらいだ。 …………猫、被ってやがったな。 走って、人の波を掻き分けて、彼は彼女の肩に手を伸ばし――――肩を掴んだ。 遠すぎてここからじゃ表情は見えないけど、どうやら複雑な表情を彼はしているらしい。
――――――――やっと、見つけた。やっと逢えた。……探してたんだ。
そんな彼の声が聞こえた気がした。 兎に角、ここから先は彼の仕事、だね。
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Re: 短筆 1 (握った手、いつまでも離さないでいて) ( No.33 ) |
- 日時: 2007/03/31 17:53:57
- 名前: 玲
- 参照: http://yaplog.jp/yami-tuki/
- 現実世界へ戻ってきて一ヶ月が経とうとしても、キミの存在は頭から離れなかった。
「……あたしばっか悩んでるのかなぁ」
学校帰り、野外カフェで暇を潰していたあたしは、テーブルの上に肘を付き空を眺めながら言った。 誰にというわけじゃなく、ただ独り言のように。
「いつもあたしだけ。たまにはキミも……キミも」
あたしのこと想ってくれてもいいのに。 そう思うことはいけないことかな。 こんなにもあたしの中で膨らんでいるキミの存在。 その一割でも、キミはあたしのことを憶えてくれているだろうか。
「あの兄弟の中じゃ、あたしのこと想ってる暇もないか」
そう呟き苦笑する。
「楽しかったなぁ……」
あの頃を思い出し、急に目頭が熱くなった。 溢れてきた水分が頬を伝わないように必死で堪える。
「なんか莫迦みたいだなぁ、あたし……」 こんなにも彼に逢いたいのなら、どうしてあの時声を掛けなかったのだろう。 どうして今、こんな思いをしているのだろう。 莫迦だ。 ……自分を責めていても事態は変わらないから、あたしは取り敢えずカフェを後にした。
電車に乗るために駅前通りを歩く。 今日も混んでるなー。このぶんだと駅で誰かと鉢合わせしそう。 そう思いながら駅に向かっていると、ふいに自分を呼ぶ声が聞こえた……気がする。 気の所為かと再び歩を進めると、急に肩を掴まれた。
「え……?」
驚いて振り向いた。 そこにいたのは、見覚えのある人物。
「お、とうと、クン……?」 信じられなかった。大地じゃない。 今目の前にいるのは、間違いなくキミだった。
「どう……」
どうしてと訊きたかったのに、その前にキミは言った。 ――――――――やっと、見つけた。やっと逢えた。……探してたんだ。と。 あたしの頬を、自然と涙が伝った――。
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Re: 短筆 1 (握った手、いつまでも離さないでいて) ( No.34 ) |
- 日時: 2007/03/31 18:40:15
- 名前: Gard
- 参照: http://watari.kitunebi.com/
- そこは暗闇。
世界と世界の狭間、時の狭間、生と死の狭間。 そんな空間の一角に、ぽっかりと本棚が立ち並んだ場所があった。 置かれているソファに座っている闇色を髪と瞳に宿した少年が、持っていた本から目の前に立つ女性へと視線を移した。 一房だけ紅い色を持った、黒髪の女性。その黒瞳は優しげに細められている。
「……どうやら、お前の息子は無事『精神の時間』を取り戻せたようだな」 「よかった。それだけが、心残りだったから」
女性はそう言うと安堵の息を吐く。 彼女はもう、何処かの世界の住人ではなかった。これから輪廻の輪に戻る存在。 ただの、死者。 そんな彼女がここにいるのは、偏に少年の力だった。
「これで、輪廻の輪にいけるんだな?」 「ええ、ありがとう。アイオーン君」 「…………一体誰から広まったんだ? その渾名」 「うふふ、色んな所からよ」
溜息を吐き、少年は持っていた本を閉じた。 女性を改めて見て、少年は右眼を眇めて見せた。
「保科桔梗。……ぼくの名前はどうでもいい。そろそろ」 「ええ。…………もう、行くわ。最後にあの子に言葉を残したかったのだけれど」 「言葉によっては、伝えよう」
少年の言葉に、軽く目を見開いて驚くと、女性はお願いしようかしら、と微笑んだ。
「倖せになって、と。倖せにしてあげて、と。…………それから――――」
女性が消えた後、少年はもう一度本に視線を落とす。
「やっと、見つけた。やっと逢えた。……か。若さとは時に恥知らずだな」
本に書かれている、否、事実何処かの世界で呟かれた女性の息子の言葉を繰り返すと、少年は女性の最後の言葉を思い返した。
――――――――私の分まで生きなさい、陸。
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Re: 短筆 1 (握った手、いつまでも離さないでいて) ( No.35 ) |
- 日時: 2007/03/31 19:58:30
- 名前: 鈴花
- 参照: http://ameblo.jp/rinka0703/
- 山本武は・・・どっちかって言うと苦手なタイプだった。否、惹かれてたけど、認めたくなかっただけ。
明るくて、クラスでもリーダー的存在で。何よりもその瞳が全てを見透かしているみたいで、怖かった。 なのに・・・
「1限目って何だったか覚えてるか〜?」
何でよりにもよってこいつと日直・・・ まぁ、それもこの学級日誌を書けば終わり。 「数学・・・だったと思うけど。」 答えないわけにもいかないのでとりあえず答えておく。 夕日の差す教室で、二人っきり・・・なんだか誤解されそうなシチュエーションよね。 「反省かー・・・『仕事をきちんとできた。』・・・っと。」 「そんな小学生の日記じゃないんだから・・・しかもそれって反省になってないわよ。」 なんだか可笑しくて、思わず笑ってしまった。 すると山本は私の顔をまじまじと見て
「お前笑ってる方が可愛いぜ?」 と。 「・・・・・・は?」 何を言っているのか、この男は。 言葉の意味を理解するのに数秒かかって、それからどんどん顔が赤くなるのが分かった。 「な、ななななな・・・っ///」 よくそんな言葉を恥ずかしげもなく言えるわね!? 「ぶはっ!湖凛って面白いのな!」 「〜〜〜〜〜〜〜!!」 やっぱり苦手だこの男・・・! 「早く終わらせるわよ!まったく、もう・・・」 さっきの出来事を頭から振り払おうと、鉛筆を滑らせた。 「なぁ・・・」 「今度は何・・・」
顔を上げると山本は私の耳元に口を寄せた。
【なぁ・・・好きなんだけど。】
あぁ・・・もう。 どうしてくれるのよ。 日直の仕事が全く手につかないじゃない・・・
夕日の差す、二人きりの教室で 二人の影は重なった。
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Re: 短筆 1 (握った手、いつ ( No.36 ) |
- 日時: 2007/04/01 23:06:16
- 名前: 鈴花
- 「はぁ〜やぁ〜とぉ〜!!」
そいつは乱暴に屋上の扉をバンッと開けた。 「なんだよ・・・」 「なんだよじゃないわよ。今日国語の課題提出日なの忘れたの?出してもらわないと頼まれた私が怒られるんだから!」 あー、うぜぇ。 「んなこと聞いてねぇぞ。」 「先生の話くらい聞きなさいよ・・・まぁ、今回は私がごまかしといてあげるけど、次からはちゃんと出しなさいよ?」 「へーへー」 適当な返事をすると明らかに信用してないような顔をして 「そのうち夕玖に捨てられるわよ。」 と、(今全然関係ない)俺の恋人の名前を出して脅してきた。 「んな・・・っ!?」 いちいち反応する俺も俺だが。 「ウソよ、ウソ!隼人愛されてるものね。羨ましいわ。」 「テメェはどうなんだよ。」 「そんなの・・・っあ、武!」 そいつは運動場にいる自分の恋人に向かって手を振った。 ・・・今のうちに逃げるか。 俺は階段を降りながら 「・・・夕玖に会いに行くか。」 無意識にそう呟いた。
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Re: 短筆 1 (握った手、いつまでも離さないでいて) ( No.37 ) |
- 日時: 2007/04/01 23:35:23
- 名前: 黒瀬
- 参照: http://id29.fm-p.jp/8/ginduki/
- 私のクラスに一組カップルができた。
一人は女の子たちに大人気な野球ひとすじのスポーツ少年。 一人は男の子たちに大人気な大人っぽくて頼れる美少女。 つまり憧れの二人がくっついたわけだ。本人たちは云わないながらも空気だけですぐ解る。 あの二人はいますごく幸せだ。 「しあわせそうだよなあ………」 「は?」 思わず声を漏らしたら机の向かい側に座っている銀髪の少年がこっちを向いた。小さい声で言ったつもりなのに、すげぇなこの人。 少年の名は獄寺隼人。つい最近このクラスに転入してきた(超絶美形の)男の子だ。 態度はふてぶてしく超不良で先生からの評判は悪い。が、女の子はそういう「一味違う」ところに惹かれるらしい。 「なんでもありません。早く日誌書き終わってくだせェよ、旦那」 「早く書き終わりたいならテメェが書きゃいいじゃねーか」 それはちょっと困る。それだと私が風紀委員の仕事があるのにそれをほっぽりだして日直の仕事をやってる意味がなくなっちゃうじゃん。 …獄寺くんは字が綺麗だ。席が近くになってそれに初めて気付いた。 私は獄寺くんの字が好きで、仕事をほっぽってこうして頬杖をしながら獄寺くんがノートに書き連ねていく字を見ている。 「っていうか獄寺くんって意外とマジメだよねー」 「は?」 何度目かのセリフを呟きつつも獄寺くんはだるそうに字を書き続ける。ほんとにこういうとこはマジメだ。 私はふいに獄寺くんの字から目を離す。 ―――次の瞬間、私は彼に見惚れた。 夕暮れの橙に映える綺麗な銀色の髪。ノートを見る、碧色の瞳。手のしろさ。肌のしろさ。 そして、私の中で何かが弾けた。 「………なんだよ、宮城?」 「、あのさ、獄寺くん」 「あぁ?」
「―――――私、獄寺くんがすきだよ」
半ばぼうっとしながら、私は口走る。自分で言いながら、(ああ、そうだったのか)と気付いた。 私が風紀の仕事をほっぽって日直の仕事をやっているのは、獄寺くんの字がすきだからじゃない。 獄寺くんのことがすきだからなのだと。
橙色の教室で、おどろいたように私を見つめる彼を見ながら、私はわらった。
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Re: 短筆 1 (握った手、いつまでも離さないでいて) ( No.38 ) |
- 日時: 2007/04/02 16:57:07
- 名前: 栞
- 参照: http://www.geocities.jp/akatukiquartet
- 「―――――こちらへ来なさい」「・・・・・・・・・・はい、何でしょう父上」
「・・・・・・・君の役目は、解っているね?」 「はい、父上。わたしの役目は当家の“光”をお守りすることです」 「そうだ、それを忘れるんじゃない。良い子だね、私の娘――――いや、“楼焔”」 わたしの役目は、“影”となって“光”を守ること。 ・・・・・・・・・・・それだけが、わたしの存在している理由。
「あら、あの子が・・・・・・・?」 「そうよ、特殊な力をお持ちになっている楼焔様の身代わりの子」 「楼焔様も大変ね、素晴らしい御力なのに存分に発揮することが出来ないわ」 「本当に双子なのかしら?だって、ねぇ?共に生まれてきたはずなのに」
「術のひとつも、持ち合わせていないなんて」
廊下の片隅で、わたしを見ながら話す小間使い達が見えた。 わたしは日本でも有数の良家、双月家の娘。 けれど“わたし”という人間はこの家には存在していない。わたしは類稀な力を持つ双子の弟、楼焔の影武者として暮らしている。 その力故に命を狙われることも少なくなく、当代一の力を持つ弟を喪う事を恐れた双月家の大人たちは、わたしを身代わりとして公の場に出すことにした。 わたしは弟と共に生まれたにも関わらず、何の才能も持っていない。本来なら弟が受けるはずの喝采をわたしは受け、弟は家の敷地の中で護られて暮らし、辛いことだろう。 しかし命を狙われるというのは大仰ではなく本当にある事で、現にわたしには古傷が多少残っている。 この傷が、護っている証。・・・・・・・・・・・・・この傷を負う事のみが自分が存在している証になっていると、信じたかった。
「・・・・・・・・・・楼蘭、」 「・・・・・・・・・・・・・・・・焔」 後ろから肩を掴まれて驚いて振り向くと、自分の写し身のような顔の弟がわたしの顔を見ていた。 気まずそうな顔をしている小間使い達を一瞥すると、彼はわたしの手を掴んで屋敷の奥へと連れて行った。 「・・・・・・・久し振り、蘭」「・・・・・・・・・うん」 彼の言葉に、少し微笑を浮かべながら応える。しばらく会っていなかった。 話しかけてくれた事と、何よりわたしの名前を呼んでくれた事が嬉しかった。彼に言われないと、わたしの名前を忘れてしまいそうだ。 「蘭、さっきのは気にするなよ」「・・・・・・・・ああ、うん、気にしないよ」「それと・・・・・無理、するなよ」 彼は足を止めて、痛々しそうに掴んでいないほうのわたしの腕を見た。数日前に剃刀で切られた傷に包帯が巻かれている。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・大丈夫、焔はわたしが護るの。だから、怪我しても平気なの」 「・・・・・・・・・・・・・・俺、蘭が怪我するのは嫌だ」 心底痛そうな顔をしてくれるような顔をしてくれる彼に、わたしは救われた気がした。
見上げた窓から星空が見える。 星屑たちは、自分の存在を見失わないように自らを燃やしているのだろうか。 それなら、わたしは大丈夫だ。 彼という光がある限り、わたしはきっと、歩いてゆける。
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Re: 短筆 1 (握った手、いつまでも離さないでいて) ( No.39 ) |
- 日時: 2007/04/02 18:13:12
- 名前: Gard
- 参照: http://watari.kitunebi.com/
- 暑い夏の時期でも、日暮れになると少しずつではあるが気温が下がっていく。
ただ、日暮れが訪れるまでの時間が長いのだ。 午後六時でも、夏の日はまだ明るい。 日誌を付け終え、黒板を綺麗にし、机の列を揃える。 それから、残っていた生徒達によって掃除の後少し汚された床も、箒とちり取りによって綺麗にする。 そうして一仕事終えた後、春菜は一息吐いた。 箒とちり取りを片付け、自分の机に腰掛ける。 今日も一日終わったなぁ、と思っていると、がらり、と教室の扉が開いた。
「……あれ、中西?」 「倉橋君」
入ってきたのは、クラスメイトの英司だった。
「お前、こんな時間まで日直かよ。大変だな」 「倉橋君は部活? お疲れ様」 「おうよ」
そう言ってニッと笑う英司の笑顔に頬を少し染め、春菜は鞄に教科書を詰めていく。 その姿を見ていた英司は、ぽん、と手を打って春菜に声を掛けた。
「なぁ、中西。オレの席にある鞄、取ってくれないか?」 「え、ああ。うん、解った」
英司の席は春菜の席の近くにある。 それを思い出し、英司の机から鞄を取ると、英司に渡すために近づこうとした。
「あ、ついでにお前の鞄と日誌ももってこいよ」 「え?」
自分の行動を止められ、小首を傾げる春菜。 そんな春菜に、英司はもう一度ニッと笑いかける。
「一緒に帰ろうぜ」
その一言で春菜の頬は熱く、赤くなった。
「…………うん」
赤くなりながら頷くと、春菜は自分の鞄と日誌も持って英司の隣に行く。
「それじゃ、行こうか」
そう言った英司をちらりと見上げると、彼の頬も少し、赤くなっていた。
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Re: 短筆 1 (握った手、いつまでも離さないでいて) ( No.40 ) |
- 日時: 2007/04/02 18:36:26
- 名前: 栞
- 参照: http://www.geocities.jp/akatukiquartet
- ぼやけた意識が次第に輪郭を帯びて、はっきりとしたものに変わっていく。
妙な浮遊感を覚えるその場所には、見覚えがあった。
そして、その声にも。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・ひさしぶりね」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お久し振りです、主よ」 主、と呼ばれたその美しい隻眼の女性は、うっすらと目を細めて微笑んだ。 「・・・・・・あなたも、魅せられてしまったのね・・・・・・・・」
隻眼の女性は、詠うように呟く。
「命在るものの姿は美しい。だから、貴方は魅せられてしまったのでしょう・・・・・・・・・?」 そして、云った。
「わたしもそうよ。だから、同胞は潰したくないの。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・あなたに、名を差し上げましょう。・・・・・・・・・・・・・咎を背負う、気があるならば」 そう云われて、自分の脳裏に記憶が蘇る。 与えられたこの名を、捨てろというのか。あの人に呼ばれて、初めて素晴らしいと思えた、この名を。 けれど、このまま魂が朽ち果てるよりは――――――
「・・・・・・・・・・・・・・・・・お受けします」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そう、良い子ね・・・・・」 隻眼の女性は、口端を吊り上げて哂う。
「あなたは、ジャン。・・・・・・・・・・・・・・・・必要とされない、哀れながらくたの、“ジャンク”よ」
そして、自分は“堕ちた”のだということに、気付いた。
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