Re: 短筆部文集 3冊目 (行事があってもマイペースに製作中!) ( No.54 ) |
- 日時: 2008/01/31 16:07:32
- 名前: 春歌
- ーガラッー
鞄を取りに教室のドアを開けると 私の悩みの種である畑中照と親友の外田尚の二人がいた ちなみに外田尚は親友である姫葵の片思い相手
「あ・・・・」
どことなく重く気まずい雰囲気に辺りが包まれる
「え、、と、失礼しました・・・・・・」
私はその雰囲気に耐えられなく、本来の目的である 鞄を取ることさえも忘れて屋上に向かった
「なんだったの?」
あの光景はいつもの事だったはずなのに・・・すごくイヤだった きぃと屋上のドアを開けてそのままアスファルトに寝転んだ
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すべて、愛だった -2- ( No.55 ) |
- 日時: 2008/02/01 16:26:44
- 名前: 竜崎総久◆OMBM0w5yVFM
- ……あいつ。
天海路、聖。 俺のてっこを奪った、敵。 俺にとって聖の第一印象ってのは、そんな感じで最悪だった。
重苦しい空気。 いつもは必要以上に喋りまくるてっこも、この時ばかりは黙り続けた。 ……この鈍感。 もっと言い訳してくれれば、こっちも存分に責められるのに。
何で黙ってんだよ。 何とか言えよ。 言い訳しろよ。 「……っ……」 息ができない。 苦しい。
「トノ?」 そういうてっこの声が、やけに遠く聞こえる。 目の前にいたはずのてっこが視界から消え、かわりに床の目が見えた。 そして何も見えなくなって、気持ちだけだった「息苦しさ」が、急に実感を伴ってきた。 「……ちょ、トノ!」
誰かの足音を遠くに聞きながら、俺は必死で訴えた。 ……いや、正確に言えば訴えようとした。 俺を置いていかないで。
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夕闇に染まる誰昏 ( No.56 ) |
- 日時: 2008/02/01 17:41:45
- 名前: 春歌
- 「どっ・・どうしたんですか?!」
がらっと急いで教室のドアを開け放った 委員会で遅くなり忘れ物を取りに教室に行く途中 誰かが倒れる音と必死にその人の名前を呼ぶ声が聞こえた しかもよく知ってる声・・・・・
「畑中くん?!」 「あ!!・・・えと、瑠璃天姫葵ちゃん?」
一言も話したことないのによく知ってるなぁ・・ 頭の片隅で姫葵はそう思いながら今起きてることを把握しようとする 倒れているのは間違いなく外田尚、とたん頭が理解すると姫葵の行動は早かった
「畑中くん、外田くんを保健室に運んで」
何が起こってたのかはわからないけど、畑中くんが絡んでることは確か と、直感で感じ、すこし睨むように見据えた 何時までも行動しようとしない彼に私は・・・・・
「早く、過呼吸なら手遅れにならないうちに 応急処置しないと間に合わないの・・・・・早くして」
いつの間にかそう、言い放っていた
*
ふわりと風の流れが変わった 蝶が私の周りをひらひらと飛んでいる
「・・・・・変化の前兆」
蝶は旅立ちの印、変わる前兆 何かが変わる、ソレはココの人間かそれとも私か
「って、私が変わるなんてありえないか」
くすくすと笑みをこぼしてまた空に視線を戻した 春と夏の間の五月の夕方はそのときの私にとって一番の癒したった
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雪は世界に刻まれた記憶と記録を繋げる ( No.57 ) |
- 日時: 2008/02/01 18:43:40
- 名前: Gard
- 参照: http://watari.kitunebi.com/
- 暗転した世界が元に戻る。
真っ白な雪が眩しく、思わず眼を細める。それから隣にいるハルカに視線を移し、白昼夢でなかったことを安堵した。 周りを見回して、気付く。 世界は、元に戻ったわけではなかった。 暗転する前にはなかったはずの煉瓦造りの街並み。そこにオレ達は立っていたのだ。 周りには行き交う人々。ざわざわとした雰囲気は解るのに、一人一人の気配がとても希薄だった。 「今、世界の記憶と記録に干渉して、キトが何故そうなったか解る場所を再現しているの」 ハルカの言葉に首を傾げる。 再現、ってなんだ。周りにはこんな街並み無かった。 疑問に思っていると、ハルカはオレの方へ顔を向け、少しだけ首を傾げて説明してくれる。 「確か、あなた達はゴーレムを使って、起きた出来事、映像に残すのよね」 「あ、ああ。よく知ってるな」 「…………神流の時の記憶、あるから」 軽く微笑んだ彼女に眉を寄せつつ続きを促す。 「それを、立体映像にして、周りに映し出しているの。空気を媒体にして」 だから、ほら。 そう言って、ハルカは歩いていた人を遮るかのように手を翳す。 けれど、全くそれを意に介した様子もなく、ハルカの手を擦り抜けてその人は歩いていく。 ハルカの能力は凄いと、オレは本当にそう思った。だって、化学班だってこんな事、出来やしない。 コムリンすら暴走させてしまうのだから。 そんなことをつらつら考えていると、すっ、と景色が移動した。 街の一角。そこにいる黒髪の少女。まだ七歳かそこらといったところだろうか。 足下に積もった雪を使い、蹲ってせっせと雪だるまを作っている。その蒼い瞳はとても真剣で。 そして、オレはその少女に見覚えがあった。
「…………オレ?」
そうなのだ。その少女はオレなのだ。間違いなく。 驚きながらも見守っていると、やがて小さなオレはその小さな手に息を吹きかけ、雪だるまを作るのを止める。 と、何かを感じたのか、小さなオレは顔を跳ね上げた。にこり、と嬉しそうに顔を笑みで彩る。 その視線の先を見てみれば、一人の男の姿。 「……父さん?」 言葉は、するりと出てきた。 見覚えのない筈のその男には、何度考えても父親という言葉しか浮かんでこなかった。 「キトの、お父さん?」 「………………多分」 自信はない。けれど、確信しているかのようにそれ以外の単語が浮かんでこないのだ。 父親は小さなオレに近寄ると、笑顔でその小さな身体を抱き上げた。 どこにでもある、親子の光景。 さあ行こうか、とでも言っているのだろうか。小さなオレを降ろし、父親は手を引いて歩き出す。 彼等が歩くのと一緒に、景色も移動していく。 「キトのことが知りたいから。映像、動かしてるの」 ハルカが疑問に思いかけたことを説明してくれた。 そのまま付いていくと、ある家の近くを二人は通りかかった。 大きな家。その軒下には大きく鋭い氷柱が出来ている。その氷柱の下を、小さなオレが歩こうとしていた。 きしり、と氷柱が軋んだのが見える。 自重に耐えきれなかったのか、はたまた屋根にくっついていた雪の部分が崩れたのか、氷柱が小さなオレ目掛けて落ちてくる。 「っ!」 丁度運悪く、小さなオレはそこで転んでしまっていた。その心臓部分を寸分の狂いもなく氷柱は射抜く。
紅が、飛び散った。
声もない叫びを父親が上げる。違う、元々音は聞こえていない。 紅い血を流し続けるその幼い身体に父親が触れ、更に声を上げた。声は、聞こえない。 血はまだ温かく、辺りの雪を染め、溶かし、冷たい空気に触れて湯気を立てている。 生々しいその映像から目を背けようとすると、ハルカがそっと右手を挙げた。 途端、切り替わる景色。今度は何処かの家の中のようだった。 「……ハル、カ」 「…………ごめんなさい。見てるの、辛かったから」 「……いいんだ。オレも、辛かったから」 けれど、あれではオレが死んだところしか解らない。 何故オレが「死んでいるのに生きている」のか、全く解らない。 どうしようかと口を開く前に、家の中に誰かが現れた。 先程の、父親だった。髭が伸び、髪はぼさぼさだが、すぐに解った。その片腕には小さなオレの亡骸。寒いからなのか、大して傷んではいない。 あの光景から少し時間が経っているらしい。 父親はそこにあったベッドの上に小さなオレの身体を乗せると、もう片方の手の中に握っていた何かをそっと身体の上に置いた。 それは神の石、イノセンス。 「ま、さか」 まさかまさかまさかそんなまさか。 オレの否定したい思考と裏腹に。 父親は、イノセンスを、小さなオレの身体に開いた暗い穴へ。
穴の開いた心臓のあるであろう場所に、入れた。
途端、何かと反応したのか、穴からイノセンスの光が漏れ、傷口が塞がっていく。 血を無くし、真っ白だったその肌にうっすらと赤みが差していく。 そして、目を開いた。
気付けばそこは、元の白銀に覆われた丘だった。 「…………」 「…………」 オレもハルカも、何も言わずにそこに立ち尽くしている。 否、オレは座り込んでしまっていた。あまりにもあの光景はショックだった、らしい。 未だ実感が湧いてこないが、間違いなくあれはオレに起こった出来事だったのだ。 暫くして、ハルカが口を開いた。 「……キト。大丈夫?」 「…………ああ」 その優しい言葉に苦笑を返しつつ、オレは立ち上がる。 「ああやって、オレ、生き返ったんだな」 「…………うん」 どう返していいのか解らない、といった様子のハルカ。オレも同じ立場だったらそうなっていただろう。 残念ながら、オレは当事者の立場だったわけだが。 「解ってよかったよ。……サンキュ」 「ごめんなさい…………」 「謝るなって。オレ、感謝してるんだから」 そう言って笑ってみせると、ハルカは一瞬躊躇して、 「でも……………………キト、泣きそう」 ちゃんと笑えてなかったらしい。 苦笑を漏らしながら、オレはハルカに右手を差し出した。 「それでもさ。……ホントのこと、知れたから」 知らないよりはいい。 知らずに「罪」を犯すよりは、ずっと。 ハルカがおずおずとオレの右手を握り、別れの握手をする。 握手を終えると、オレは街の方へ、ハルカはまた何処かへと消えた。
そうして、オレは真実を知ったのだった。
end ――――――――――――――――――――――――― (>>48の続き)
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Re: 短筆部文集 3冊目 (行事があってもマイペースに製作中!) ( No.58 ) |
- 日時: 2008/02/10 21:54:09
- 名前: 深月鈴花
- ≪笑い合った 青い蒼い空のもと
白い秋桜 咲き散る
It is fueled by the wind, it scatters, and it goes.
あの時のままだよ
ねぇ、だから
帰ってきて 私の 大事な人―……≫
歌番組の収録中、バラードのそんなフレーズがスタジオに流れた。 ………このフレーズを、私はよく知っている。だって、これはあたしが初めて自分で作詞作曲した曲のサビの部分なのだから。 「はいっ、この曲は鏡魅ちゃんが初めて作った曲です!」 司会の男性アナウンサーの声が響く。 曲を流された当のあたしは驚愕、の一言。ちょっと待て、こんなの予定になかったよねっ!? 「はい、鏡魅ちゃんちょっとびっくりしすぎですねー?」 司会の言葉に、お客さんはどっと笑う。でもそんなのあたしの耳には入っていない。 「えっ、ちょっと待っ、え!?なんでこんなのあるんですかぁ!?」 このCDは本当にごく少数の枚数しか出回っていない。おそらく100枚いかないのではないか。 「そこは企業秘密でーす。えっとですねー、これは誰かのことを思って作った曲だというデータがあるんですが―どうなんですか?」 こういうとき、テレビ局とかの力ってすごいよね、本当。 そのデータ集めた人、恨んじゃうからね? 「ど、どうなんですか……って……どうなんでしょう?」 苦笑しながら、にっこりと笑う。…とりあえずしらばっくれてみる。 「はい、ちゃんと答えましょうねー。」 流されて撃沈。 「……当時の、好きな、人……です、かねぇ?」 スタジオのわざとらしい「おぉ〜」というどよめき。 無駄に点(、)がつくのは勘弁してね。それだけ焦ってるんだもん。 「おぉーっ、言いましたねぇ!」 あんたが聞いたんだよ!って言いたい、とっても言いたい! それを抑えて、あたしは口を開いた。 「言いましたよ、言っちゃいましたよ、これ!?いいんですか!?」 またスタジオに笑いが渦巻く。
―それから、当たり障りのないトークをしたものの、頭にはこの曲を作ったころの思いが廻(めぐ)っていた。
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或るミュージシャンの休日。 ( No.59 ) |
- 日時: 2008/02/11 00:21:39
- 名前: 沖見あさぎ
- 参照: http://id29.fm-p.jp/8/ginduki/
「……カガミが出てる」
片膝を立てて座り、その上に顎を乗せ、リモコンをテレビに向けた体勢で黒葛原灰が言った。 風呂上りで冷蔵庫からコーラを取り出そうとしていた俺は上体だけを捻って灰のほうを見る。 灰の黒い目はじいとテレビ(プラズマでもなんでもない、ボロくて小さいやつだ)の画面を観ていた。 ひとまず冷蔵庫を閉めてから、俺は灰の隣に座る。 テーブルにコーラを置いたところで、やっとテレビに目を向けた。 すると其処には、赤茶色の髪を巻いた緑眼の少女が映っている。
ああ、と俺は頷く。
「鏡魅、ね」
俺たちと同じ事務所のアイドル『鏡魅』だ。 先日新曲を出したらしく、歌番組に出演していた。 そういえばスタジオの廊下ですれ違ったような気もする。そのときは灰はいなかったが。膝の上に顔を乗せた灰は、画面の向こうの美少女に興味津々のようだった。 なんだお前、そういうオンナが好みかよ? と軽く声をかけるが、灰は答えない。 ふとテレビから音楽が流れてきた。歌い手は間違いなく『鏡魅』のものだった、が、何処か幼いような気もする。 途端、画面の中の『鏡魅』が動揺した。
『はいっ、この曲は鏡魅ちゃんが初めて作った曲です!』
柔和な笑顔を浮かべた男性アナウンサーが告げた。はあ、成程。どうりで違和感があるはずだ。 にしても『鏡魅』は俺が見ても異常なくらい動揺している。そんなに恥ずかしいのか(それほど下手ではないと思うが)、それとも別の理由か。 ふと何気なく隣を見て、俺はぎょっとした。
灰が笑っていたからだ。
「どうしたんだよ、灰」 「優生、」 「ん?」 「俺、すごーい発見した、って気がする」 「………ハァ?」
なんだそれ。吐き捨てるも灰はまた画面に集中して返事を寄越さなくなった。仕方ないので俺はコーラのキャップを捻って開ける。
――――画面内では、『鏡魅』が慌てた発言をして笑いを呼んでいた。
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シンキロウとカゲロウの違いがわかりますか?……わかりますか ( No.60 ) |
- 日時: 2008/02/11 04:46:28
- 名前: そら
- 参照: http://yaplog.jp/sora_nyanko/
- ひらひらと赤い花びらが舞っていく。
柔らかな花びら達で包み込まれたような花は、棘だらけの茎だけを残して消えた。
「ひどい事するね、見かけによらずってこのことか」
突然、甘ったるい声が心臓を高鳴らせた。 振り向くとそこには含んだような微笑みを浮かべる少年が立っていた。 思わず声を失った。 日差しを浴びてキラキラと輝く銀髪は、不思議と違和感なく少年に馴染んでいる。 少年はその微笑みを浮かべたままに歩み寄ってきた。 「君は平気で命を殺すんだ」 「……何の、」 何の話をしてるんだと、そう問うつもりだった。 しかし少年は有無を言わさずに棘だらけの茎をひょいと手から攫っていった。 あまりに突然の事でポカンと口が開く。 その間抜けさに気が付き慌てて頭を振ると、キッと少年を睨みつけた。つもりだった。 しかし当の少年は棘の茎を指でクルクルと回して完全に1人の世界に入っていた。 「ははーん、なるほど」 いや、何がなるほど。 顔をしかめたがやはり全く気にされず、少年は何やらブツブツと呟いている。 やがて顔を上げ、急ににこりとこちらに微笑みを向けた。 「念のために確認しようか、それとも面倒だし止めておく?」 「……あんたは誰。僕に何の用」 もったいぶったような口調で変な事を切り出した少年のセリフを無視し、そう口にした。 少年はキョトリとこちらを見つめ、小首を傾げる動作をする。 そしてふっとまた微笑みを浮かべた。 「では確認しよう。君の名前はユーイチくん、申し訳ないけど名字は忘れた。間違いないよね?」 「何で僕の名前……というか忘れたって何だよ」 「俺も名乗った方がいい? 一応礼儀があるものな、うん」 人の話をここまで聞き流しておいて礼儀も何もあるものか。 聞き流す、というより耳に入ってさえいないのかもしれない。 彼はしばらくわざとらしく首を捻ったり、手をこめかみに当てたりして何かを考えるような素振りを見せた。 「……よし、じゃあ俺もユーイチでいいや」 「何だよそれ。あんたは何がしたいんだよ」 「でも同じ名前はややこしいか、じゃあユージで。よろしくー」
いや、あんたの存在自体がややこしい。
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夢だと思ったら現実で、現実だと思ったとたん夢になる ( No.61 ) |
- 日時: 2008/02/11 04:46:56
- 名前: そら
- 参照: http://yaplog.jp/sora_nyanko/
- こういう支離滅裂な状況を過去に体験したことがある。夢だ。
夢というものは大体の場合が起承転結のハッキリしない滅茶苦茶なものが多い。 ならこれは夢なのだろうか。 そう考えたが、少年……今はユージとしておこう、ユージの軽い一言によって破り捨てられた。
「夢オチはないよ、作者がその手の話書くの苦手だから」 こんなところで作者事情が。
「というか人の心を読むな! 本当に何なんだよ、あんたは」 「ユーイチくん、俺は今まで君のような人間に五万と会ってきた。でも誰ひとり逃れた者はいない。 確率的にいっても残念ながら君が逃れられる可能性は0だ」 ダメだ、こいつは別世界にいる。 そもそも雰囲気の所為で疑わなかったが、そもそも髪の色といい目の色といいおかしい。 どちらも白のような銀色で、とても人間さを感じられるようなものではなかった。 そう考えた途端、急に背筋にゾクリと冷たい寒気が走る。 「……あんた、まさか死神……とか言わないよな」 「うん言わない」 考え損だった。 無駄にファンタジーな雰囲気を演出してしまった。 もういいやと投げやり気味に息を吐き捨てた瞬間、ユージはケロッとした顔で言った。 「まー仕事内容は変わんないけどね。君を死の世界へ案内するために来たんだ」 「…………はい?」 「あれ、通じなかったかな。なるべく間接的に伝えてあげたいんだけどつまりはー……君を地獄に堕とす」 どこが間接的だというのか問いたい、真剣に。 全身の血の気が引いていくのが分かった。 ユージは今何と言ったか。地獄に、墜とす? 「……ふざけるな。冗談にもほどがある。わけがわからない! 本気で!」 「あれー。死神がくることを予想してたんなら覚悟してると思ったんだけどな」 「だからふざけるなって!」 「まあ、君に拒否権はないんだけどね。全ては俺の気分だから」 最悪だ。 微妙に会話が成立していないどころか、このままでは有無を言わさず殺されそうな展開である。 足が数歩後ろへ退いた。
「逃げない逃げない、これは報いだよ。君のような人間には五万と……うん、正確には四万九千九十……」 「知らない! 僕は何もしていない、あんたに殺される理由なんか」
ユージはヤレヤレとでも言うように首を横に振った。 その表情は実に余裕に満ちた、さきほどから少しも変わってはいないあの微笑みだ。 ただし、さきほどより数倍は気味が悪く感じられた。 まだ手に持っていた棘の茎をようやく離し、ユージは空いた手を特に意味もなくクルリと回した。
「勘違いは解いておくよ。俺は君を案内するだけ、さすがに自分の勝手で人を殺したりはしないのだよ」
さっきは気分だとか言ってたじゃないか。 ユージがあの笑みを浮かべたまま、1歩ずつこちらへ近づいてくる。 「理由のない人間が地獄へ堕ちるわけがない。最初に言ったはずだよ、君は平気で命を殺すーってね」 ずいぶん軽く言ってくれるものだ。 確かに言った、全く意味がわからなかったが。今もさっぱりわかっていない。 「っ……名字忘れたんだろ、人違いかもしれないじゃないか」 「嫌だな、今時ユーイチなんてダサイ名前の人が他にいるわけないだろ」 「全国のユーイチに謝れ!」 いくら後退ったところで、ユージはじわじわと間隔を詰めてくる。 イメージの中の死神のような大きな鎌を持っているわけでもなければ、血塗れなわけでもない。 ただ手ぶらの胡散臭い笑顔の人間が近づいてきているだけだというのに体は強張っている。 ああ、死神ではないと言っていたか。そんな事はどうでもいい。 「……僕は何もしていない」 「君の待っていた死神がどうして来なかったか教えてあげようか」 ピタリと立ち止まったかと思うと、ユージはにんまりと笑った。 それとほぼ同時に壁に背中がぶつかる。 行き止まり、ということだ。 ユージの提案はタイミングがよい、というよりも恐らくはわざとなのだろう。 「俺がここまで親切にするなんて特別だよ。ま、これも気分だけど」 結局それか。 伝っていく冷や汗を拭って、吐き捨てそうになったその言葉を呑みこんだ。 ユージは最初のような甘ったるい猫なで声で、そう、じつに簡単な一言を口にした。
「やっぱりやめた」 「なっ……!」
気分変わるの早すぎだろ。 その反応を見て満足したように頷いて、ユージはふいに大きく右手を振った。 すると、何もなかった空間に突然青白い光のような物が浮かび上がる。 それはくるくると形を変えてどんどん固体に近づいていく。 そしてついに細い筋となり、ユージの手に握られて固体となった。思わず声が漏れる。 「は……はさみ?」 その手に握られていたのは紛れもないはさみだ。 しかも見た限りでは子供用と思われるカラフルな色をしていて、何故かギザギザに切れる仕様。 「あちゃーハズレだ。仕方ない、これで手首切って死んでもらおっか」 「派手な技を使った割に地味なんだけど!」 「もう時間がないなあ、何か言い残すことはあるかい? 遺言ってやつだね、まあ誰にも伝えないけど」 適当すぎる。 結局死神がどうとか、ユージが何だとか、何故地獄へ堕ちなければならないのかもわからないままだ。 そもそも序盤のシリアスな雰囲気はどこへいったのだろう。 これも作者事情か。最初からこの話に辻褄とか真相とかは存在しないのか。作者返事をしろ。 スッとはさみの刃がこちらに向けられた。 逃げたな作者。 「ちょっと待って、本当に……何の理由も思いつかない。死神とかも知らないし!」
「次は地獄で会おう。その時もユージと読んでくれたら嬉しいよ」 ユージが甘ったるい声でささやき、ニヤリと笑う。 最初から最後まできれいに無視かよ。
「1回さよならだ、…………ユーゾウくん」
「いやユーイチだから!!」
勢いよく景色がブレるのを感じた。 恐る恐る顔を上げると、さっきまでいたユージの姿はない。 代わりにひどく散らかった漫画や雑誌が目に入る、見慣れたはずの自分の部屋だった。 「…………へ?」 「優一、今の寝言? すんごい寝言だねえ」 頭に焼きついた甘ったるい猫なで声に、瞬間的に身構えた。 しかしそれに対する反応はじつに冷めたものだった。 「……まだ寝ぼけてる? 何だよその構えは」 「ゆ……じ?」 「見ればわかるだろー。自分の弟の名前も忘れましたか、ほうほうふーん?」 その嫌な微笑みの面影はなく、口を尖らせた表情はとても子供っぽい。 だんだんと思考がはっきりしてくると、無性に腹が立って思わず床を拳で殴った。 「結局夢オチじゃないか!」 「何の話だよ……」 顔をしかめている弟、優二の視線に気が付き、慌てて何でもないと訂正する。 優二は自前の銀髪をサラリと揺らし、納得いかないのか首を傾げる。 しかしそれ以上話すこともなく、その辺りに転がった雑誌にチラリと目を向けた。 その中の1つにくだらない『死神特集』か何かの見出しが大きく載せられている。 「ハハ……これか」 「優一?」 「何でもない……優二、やっぱり引っこ抜けたあの花植え直そう。あとハサミはギザギザじゃないやつを買いに行こう」 「……とてつもなく今更なんだけど」 優二が呆れたような顔をした。 うんと腕を上を伸ばし、完全に昼寝から起床する。
「ほら、さ。地獄に落とされたら困るから」
end
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Re: 短筆部文集 3冊目 (行事があってもマイペースに製作中!) ( No.62 ) |
- 日時: 2008/02/11 20:04:02
- 名前: 深月鈴花
- 昨日、あの歌番組のオンエアだった。
いろいろと考えながら、あたしはラジオ収録のために来たあのスタジオを歩いていた。 考え事をしながら歩いてると、ときどき人にぶつかってしまう。……これはあたしの不注意というか、癖みたいなものなんだけどね。
あの曲は、実はずっと憧れていた「綺世」をイメージして作ったものだった。 圧倒的な存在感なのに、どこか儚げで、どこか消え行ってしまいそうな……そんな「綺世」をイメージして。
………あたしの気持ちの表向きは。
「憧れ」の対象である「綺世」をイメージして、こんな詩が書けるはずがない。裏側は違うものが渦巻いてる。
この曲は「恋」として捕えられる。それはもちろん、私自身そのつもりでこの詩を書いたから。
でも、私は「恋」をしたことがない。これはあたしのコンプレックスの第一号でもあった。 「恋」をしたことないくせに、「恋」の歌を書く。この矛盾がむず痒くも、恥ずかしくもあった。焦っている、というのが正しいのだろうか。 焦ったからといって、「恋」というものができるとは思っていないけど。
……まぁ、人には人のペースというものがあるわけで……と、自分に言い聞かせてみる。 色んな人と接する機会が多くなったから、きっと大丈夫。 もうすぐ、きっともうすぐ。 あたしは恋ができる……はず?
…………だめだ、こんなことを考えている時点でまだまだ先に思えてきた。
―…そんな風に考え事と百面相をしながら歩いていたため、同じ事務所の「CROSS」の二人に気づいたのはすれ違って2歩ほど行ったときだった。
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零ノ夢〜闇を拒んで闇をつかんだ少女〜 ( No.63 ) |
- 日時: 2008/02/12 14:50:50
- 名前: 神凪由華
- 参照: http://happy.ap.teacup.com/04260606/
- その後、私は父を殺した。
包丁で、何度も何度も刺して・・・・。
「あら。終わっちゃったわね。」 急に。 ぷつりと世界が消えて、さっきまで映し出されていた惨劇はなくなっていた。」 「・・・そろそろ、時間ってこと・・・?嫌だなぁ・・・・。」 振り返ると、少女の、零の体が半分透けていた。 「あたしね、そろそろ消えるの。そして、次の零が、私の変わりに世界を見るの。あはは・・・。」 笑う少女は、綺麗で・・・悲しげで。 「じゃ、ね。」
華麗なる惨劇を、貴方に・・・・。
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