赤/皇月綺羅/01 ( No.1 ) |
- 日時: 2008/11/09 11:54:34
- 名前: 飛亜
- 参照: http://treesweet.jugem.jp/
- 「桜綺麗…」
『今日から新学期だぁ…!』
「おっはよ!綺羅!」 「えれなちゃん!おはよっ」
皇月綺羅。今年で高校2年生。
「今年から先輩だよ先輩!後輩から先輩って呼ばれちゃうんだよ!うわっなんか興奮しちゃう!」 「そうだねーなんか楽しみ!」 親友であるえれなに笑顔で話す
「にしても綺羅ってば春休みに会わないうちに可愛くなったね!」 「そっそんなことないよ!(ちょっと赤面)えれなちゃんだって!」 「ううん、綺羅と比べたら負けるよぉ。あーあ、そのうち告白されたりしてー♪」 「かっからかわないでよ!!」 「はいはい、クラスどこだろーね?」 「何組だろ?えれなちゃんと一緒だといいなー」 「嬉しいこと言ってくれるじゃない!早くいこ!」 「うん!」 うきうきした気分で掲示板に向かう。
掲示板周辺にはたくさんの生徒がいた。 「えっと…あっ1組!」 「…あたし2組ー」 「ええっ違うクラス!?」 「まぁまぁ、遊びに行きますから!」 「むぅ…」 「あ、そういえば」 えれながなにかを思い出したかのように手を叩く 「転校生くるらしいよ!この学校に」 「転校生…?」 「あ、あくまで噂だからよくわかんないけど!ちょっと楽しみじゃない?」 「そうだね!」 「教室行こっか」 「うん」 そう言うと、教室に向かった。
…転校生をちょっと楽しみにしながら
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桃 / 藤咲せせら / 01 ( No.2 ) |
- 日時: 2008/11/10 19:43:10
- 名前: 深月鈴花
- 参照: http://fiestflower.seesaa.net/
入学式が行われている体育館の横で、桜が舞う。 ああ、春なんだなぁ、と藤咲せせらは思った。
体育館には、少し緊張した面持ちの新入生と、早く校長の話終わればいいのに、と思っている在校生、二種類の生徒がいる。せーらはその新入生の列の1番後ろにいた。 まわりを少し横目で見れば、派手な服装をした人や、おとなしめの服装をした人が密集している。私服OK…というか制服がない学校なので、当たり前といえば当たり前なんだけど、なんだか少し滑稽だ。
春、桜、入学式。この3つの単語を頭の中で並べる。それが意味しているのはきっと何らかの始まりなのだろう。 その始まりが、学校生活なのか、友情なのか、それとも恋なのか、はたまた全部か。それは人それぞれなのだろう。だけど、そのときせーらは心でひっそりと「恋」の選択肢に斜線を引こうとしていた。
…後に一瞬で消しゴムをいれることになるのだけど。
入学式も終わり、クラスでの連絡事項も伝え終わって放課後…と言っていいのかはわからないけど放課後。 特に問題もなく、普通にクラスで友達もできそう。せーらが望んでいた普通の学校生活が送れそうだ。
「藤咲さん、一緒にカラオケ行かない?」 そう声をかけてくれたクラスメイト(日野さん、だったかな?)の誘いを断り、一目散に教室の横の階段を駆け降りた。 カラオケが苦手…というのもあるけど、1番の理由は…
「バイトの面接遅れちゃう…!」
これだ。これからファミレスのバイトの面接がある。高校生になったらバイトをやろうと決めていたのに、さすがに面接で遅刻はまずい。
よし、あとはここの階段を降りればすぐ靴箱…というところで。
「っ!?」
階段を踏み外す、嫌な感覚。3段ほど落ちて、その刹那に尻もちをついて痛みが込み上げてくる。
「いったぁ……」
我ながら、なんてタイミングなのだろう、と思う。階段下にいた男の人に思いっきり見られた。しかも、おそらく先輩だ。 短くさっぱりとした短髪。腕にはラバーブレス。背中にはベースのケースを背負っていた。
『……あ、かっこいい。』
いやでもめちゃめちゃ見てる。そして若干睨まれてるような気もする。……でも、なぜか懐かしい感覚がするのはなぜなんだろう。そう考えて、すぐに結論に結び付いた。
『この男の人、パパに似てるんだ…』
口数は少ないけれど、本当は優しい。せーらのパパはそんな人。この人は、パパに似ている。顔が似ているわけでも、髪型が似てるわけでもない。雰囲気が似ているのだ。と同時に我に返る。
「……あぁーっ!面接っ!」
階段でへたり込んでいる場合ではない!すぐに立ち上がり、残りの階段を駆け降りた。 あ、顔が熱い。と思ったのは階段を降り切ったときだったような気がする。その原因はこけているのを見られたから、だけというわけでは…ない。
『……ベースのケース持ってたから…軽音の人なのカナ?』
…見学、行こう。明日にでも。そう決意した。
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青 / 東谷ルル / 01 ( No.3 ) |
- 日時: 2008/11/12 01:05:56
- 名前: 色田ゆうこ
- ふっと肩を落としたときに思い切り息を吐き出してしまって、隣の生徒が少しだけこちらを気にしたのがわかった。
慌てて背筋を伸ばして小さく咳払いをする。 頑張って校長先生の話に集中しようとしてみるが、もうあたしの頭は彼の頭髪の残量のことと、前に並ぶ様々な種類の「制服」を見ながら、 セーラー服って真っ黒だし案外目立っちゃうかも、とかそういうことしか考えられなくなっていた。 やれやれだ。でかでかと掲げられた「祝入学」の文字がぼやける。 あたしは、ぴん、と張り詰めたこんな空気がどうしても苦手だ。だって今までの経験が浅すぎるから。
この体育館を見ていると夏を思い出すから困る。 傷みまくりの髪の毛を黒く染めて……確か、マイナスがつく数の計算が出来るようになって喜んでた時だ。 あのころは勉強に死に物狂いだった。 (あー、でもやっぱ数学の事考えると頭痛くなる…) あーもう面倒くせえよ早く終われよ、と何気なく流した視線が、ぐいっと一点で縫いとめられた。
(!) 瞬間、金属バットで殴られたみたいな衝撃(そんな体験無いけど)が後頭部を襲って、視界がぱっと色づく。 (いた……!) パイプイスをひっくり返すところだった。危ない。これは危ない。何か危ない気がする。 恥ずかしくなって俯いた。何が恥ずかしいのかよくわからなかった。
ってか、あの人があたしの事なんて覚えてるわけねーっつの。
(――――とか思ってたら担任だったYO☆ みてェな?) 展開に頭が付いていかず、わたしは指示通りの席について硬直していた。開いた口がふさがらない。 これから、1年間通うことになる教室……目の前の教卓に立って新入生に熱弁をふるっているのは、あの教師は、 夏、あたしにこの高校への入学を決意させた通称彩高の君(アニキ命名※東谷家限定)その人だった。
やべー! ポーンと頭から何か飛んでいった気がした。 (なんかよくわかんねえけどなんかやべえ気がする!)
そういうわけでわたしは勝手に混乱し、勝手に絶望して頭を抱えていた。
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桃 / 浅倉遼太 / 02 ( No.4 ) |
- 日時: 2008/11/16 15:15:45
- 名前: 栞
- 参照: http://blackaliceblack.blog116.fc2.com/
強制参加だった入学式が終わり、いつものように部活へ行こうとベースを背負って階段を下りる。 丁度最後の段を降りたとき、最近聞き始めたバンドの軽快なメロディーが流れ始めた。この曲は確かメール受信だっけ、と思いつつ携帯を開いたその時、
「っ!?」
背後から僅かに聞こえる悲鳴と、盛大に地面に着地する音。
「いったぁ……」
自分の横で小さく呻く人影をちらりと見て、目を細めた。視力が弱い自分の癖だ。 階段を踏み外してしまったその人影は小柄な女子で、見覚えがないので新入生かな、と勝手に決め付ける。正直この学校の女子は半分も把握していないけれど、それは気にしないことにした。 目が合った瞬間、あちらが若干怯んだ様な気がする。睨むような目つきなのはよく解っているし、今更直そうとも思っていないけれど。 しばらくしてから、その新入生らしき女子が慌てたように立ち上がる。
「……あぁーっ!面接っ!」
そう叫んだかと思うと、勢いよく走り出した。ゆるく巻かれた髪が、ふわふわと揺れている。 かすかに残る、あまい匂い。香水かな、と思いつつ、携帯に視線を落とす。新着メール1件、と画面には表示されていた。 本文に目を通す。そこには、端的に書かれたわずか二行の文章がある。いつも目に痛いほどに多用していた絵文字すらなく、無機質に黒い文字が並ぶだけ。
「あ、おーい浅倉!」
廊下の向こうから聞こえた声と、ぱたぱたと走り寄る足音。 携帯を閉じて振り向くと、同じ図書委員に所属する3年生の男子だった。
「入学式ダルかったよなー!あ、お前今日は委員会行くの?それか部活?」
勢いよくぺらぺらと喋るその口調に辟易しつつも、なにかと良い奴なのでこいつは憎めない。 部活に行こうとしていたけれど、今日の気分では行けそうもない。 今日はどちらも行かないで帰る、とだけ言うと、その男子はああ、と思いついたようににやりと笑った。
「ははーん、さては彼女だな! お前本っ当羨ましいよな、いっこ下の彼女なんて! …あ、俺今日部活なんだよ、じゃあまた明日なー!彼女と仲良くやれよ!」
否定する間もなく、彼は一方的に自分だけ喋ると去っていった。本当なんなんだあいつは、と思いつつ、降ろしかけていたベースを背負いなおす。 それと同時に、掌に収まる携帯に視線を落とす。 たった二行、二十六文字の言葉が、すべてを物語っていた。 僅かに眉根を寄せ、目を細めてから、遼太は携帯をポケットに入れてから歩き出した。
テレビのニュースキャスターが朝のニュースを読み上げるのを横目に見つつ、遼太は昨夜から準備していたおかずを二人分の弁当に詰めている。 いかにも高校生男子、な大きい弁当は遼太の分で、持ち運びが便利なコンパクトな弁当は、先程夜勤から帰ってきて、今は疲れて眠っている父の分だ。妹は給食があるので本当に助かる。 同時進行で妹と自分の朝食を準備しつつ、遼太は机の上の紙に走り書きされた母親からのメモに目を落とした。昨日は残業で遅く、今日も朝から会議らしい。
「夜ご飯ありがとう。とても美味しかった。 遼太がどんどん料理が上手くなっていってて嬉しい。 今日も遅くなります、ごめんね。 まどかを起こして、途中まで送っていってあげてね。 今日は午後から雨が降るみたい。傘、忘れないように。」
雨、という単語に、どうしても彼女のことを思い出す。
『…せんぱい、知ってますか? わたし、雨の降る日にせんぱいに会ったんです。 だから、わたしは雨の日がだいすきなんですよ』
…そう言っていたあの頃は、彼女はまだ自分を慕っていたんだろうか。
嫌な思考を切り替えて窓の外を見ると、本当に雨が降るのかと疑うほどの青空だった。 時計の時刻を確認すると、そろそろ妹を起こす時間だ。 メモを引き出しに仕舞って、遼太は妹の部屋へ向かった。 昨日送られたあのメールが、頭の隅にいつまでも残っていた。
『ごめんなさい。それから、今までありがとうございました』
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青 / 真山雪弥 / 02 ( No.5 ) |
- 日時: 2008/11/16 19:46:32
- 名前: 深月鈴花
- 参照: http://fiestflower.seesaa.net/
- 「改めて、このクラスの担任になりました。真山雪弥です。みんなといい思い出作っていきたいと思ってます!よろしくな。」
1年間教担任することになる生徒達の前で「俺的5年以内に1度は言いたいセリフ32」のナンバー13か14か15か…なんかその辺(!)を口にした俺は、半分この雰囲気に酔いしれていた。…若干笑い声が聞こえるのはスルーだ。 担任のクラスを受け持つこと。それが自分にとってプラスになるかマイナスになるかは自分次第だろうが、今は素直に嬉しさの方が強い。いや、かなり嬉しい。真新しい出席簿を見ていたら、頬がにやけてしまうほどに。(さすがに生徒の前ではやらないが) そんなことはきっと知らない生徒達に、できるだけ知的に連絡事項を伝えようと試みてみたりする。
「明日から一応授業は始まる。忘れ物すんなよ。んー、他の連絡事項は特になし。解散な。」
ぞろぞろと教室から出て行く生徒達を見送りながら、ネクタイを緩めた。 今日は入学式だから…ときちんとスーツを着て1日過ごすつもりだったが、どうやら無理らしい。 誰もいなくなった教室を見てから、自分も教室から出た。すると、後ろから女子生徒に声をかけられる。
「顔がニヤけてますけど?真山センセ。」 「……桜か。どした?」
おちょくるようなこの口調で、誰かはすぐ分かる。毎日家で顔を合わせているから。…いや、誤解はするな。そんな関係じゃない。 この女子生徒は。
「母さんが兄さんに忘れ物って。」
妹だからだ。 差し出されたのは葉書。…しかもこれは雑誌の懸賞応募じゃないのか。
「…なにこれ。」 「言わなくてもわかるでしょ。出しといてってメッセージ。あ、あたし今から遊び行くから。帰り遅くなるっつっといて。」
どいつもこいつも俺をパシリに使いやがって…とは言えない。…まさかこんなとこで自宅での俺の地位を暴露するとは思わなかった。 こうなったらどうしようもない。出しに行くしか俺の選択肢は、ない。
「…はぁ……」
溜息が自然に出た。仕方なく雑誌の懸賞応募を片手に、俺は職員室へ戻ろうとした。
「…ん?」
見覚えのある生徒が、職員室の前にいた。たしか…
「……東谷?」
東谷ルル、だったはず。きちんと着こなしたセーラー服と、白い肌が印象的だ。こういうのをおそらく清純派、というのだろう。
「え…、あ…」
声をかけると、東谷は少し慌てた様子で俺を見た。…少し驚かしてしまったか、と内心反省。 …というよりも俺は声をかけてどうするつもりだったのだろう。
「早く帰れよ。また明日。」
そう、もっともらしいことを言ってから、職員室へ入った。
……とりあえず、俺はこのとき雑誌の懸賞応募の葉書を出すことを忘れないようにすることで頭がいっぱいだったような気がする。
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赤 / 泉水孝太郎 / 02 ( No.6 ) |
- 日時: 2008/11/21 23:54:32
- 名前: 遙
- すれ違う生徒達を見て、正直統一感の無さに驚いた。
誰一人として同じ制服を着ているものがいないんじゃないかと思うほど、それぞれの格好は多種多様。 まるで自らの個性を“制服”という枠組みの中で最大限に引き出し、アピールしているようだ。
これじゃ誰が転校生かも分からないな。
思わず苦笑するも、転校のたび統一された集団の中明らかに浮いてしまう自分の制服が紛れてよかったと少し安堵の溜息を零す。 不特定多数から向けられる好奇の目というものは、いつ感じてもむず痒い。
そんなことを考えながら廊下を進んでいくと、開けた場所の掲示板に群がる生徒の大群に遭遇した。 ほんの少しの不安と膨らむ好奇心にはしゃぐ彼らはきっと新入生。 ああ、自分も彼らと同じように中学から進学出来ていれば、どんなに楽だったかしれない。なんて不平は今更。 新入生にも在校生にも紛れてしまえているだけマシとして、握り締めていた校内案内図を開く。 そして赤いマーカーの引かれた「2−1」の場所を再確認した。 頭に描くはここからその教室まで出来るだけ遠回りの道筋。短期間で校内を覚えるため、自分なりにあみだした技だ。 時間はまだある。すっかり転校のいろはが染み付いている足は、遠回りを苦ともせず軽快に階段を登り始めた。
孝太郎の家は所謂“転勤族”というやつだった。 故に幼い頃から一箇所の地に落ち着いていた記憶がない。 父の転勤が決まる度、「転校したくない」と何度も駄々をこねた。 その都度ぐずる自分を懸命に宥める母の辛そうな顔を見て育つうちに、それが母を困らせる最大の我が儘だという事を知り “転校”を「いつかはやってくるもの」だと考え改めることによって辛さを紛らわせるようになった。
だが、どうやらそんな生活も今回で終わりらしい。 この地への転勤とこの高校への転校が決まった日、父と駅の傍に建つアパートの空部屋を見に行った。 それは正式に一人暮らしを認めるということであり、「俺の事情で振り回すのは最後だ」という父の無言の語りでもあった。
これから2年間。自分はここで勉学に勤しみ、部活動に励み、やがては卒業する。 経験上2年なんてあっという間だ。その短い期間のうちにやってみたい事やっておきたい事が山ほどある。 目的の教室の前に辿り着いた体は少しだけ重く、心臓は程よい緊張に鼓動を早めていた。 授業についていけるだろうか。クラスの奴らとは上手くやれるだろうか。 毎回必ずよぎる不安をかき消すように、ドアの向こうから担任教師の声が聞こえた。
「よし、入ってこい。」
さあ、最初が肝心だ。 深く息を吸い込み、肺の中の空気をすべて吐き出しきらないうちにドアを開ける。
「泉水孝太郎といいます。趣味は読書と運動、引越しはこれで6回目の転勤族です。 これから1年間なるべくクラス全員と仲良くしたいと思っているので、どうぞよろしくお願いします。」
考え練ってきた簡潔な自己紹介を終え、一礼。 あちらこちらで「引っ越し6回目」発言についてひそひそと驚きの声が上がっているのが聞こえた。 やっぱり6回って多い方なんだな、なんて頭の隅でしみじみ感じつつ下げていた頭と視線を上げる。
その先で、綺麗な蒼の瞳と目が合った。
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赤/皇月綺羅/03 ( No.7 ) |
- 日時: 2008/11/22 11:53:36
- 名前: 飛亜
- 参照: http://treesweet.jugem.jp/
- 先生が転校生の紹介をしているとき、彼――泉水孝太郎と目が合った。なぜか顔が熱かった。
「えー…席はっと…皇月の隣、空いてるからあそこな」 「はい」
彼がどんどん私の所に迫ってくる。 この時、心臓が壊れてしまうのではないかと思ったぐらいドキドキしていた。(大げさかもしれないが)
ガタンと私の席の隣に座る。
「あっ…あのっ」
勇気を出して彼に話しかけてみる。その時、彼がクルッと私に振り向く。
「あっ…私、皇月綺羅っていうの!その…これから…よろしくね?」
ニコリと笑ってみる。少しどぎまぎしながらも、なんとか話すことが出来た。…正直いってかなり緊張した。
「泉水くん…でいい?」
呼び方について訊ねてみると、
「別にいいよ、じゃ俺も皇月って呼ぶから」
そう言うと、正面に戻った。
「えーじゃあHR(ホームルーム)は終わり!あ、ちょっと配布物あるからそれ配って終わりな! んじゃ早速…皇月!今すぐ職員室に来て手伝え!」
先生がそう言うと、すぐに教室を出て行ってしまった。
『え〜…なんで私だけ…』
と思いながら席を立とうとすると、
「皇月さん、手伝おっか?」
そう話しかけてきたのは後ろの席の…確か佐伯さんだったかな。
「えっ、いいよ!そんな悪いし…」 「べつにいいよぉ?なんか皇月さんってほっとけないというか…ま、とりあえず行こうよ!」
そういうと、佐伯さんは教室を出て行ってしまった。
「あっ、ちょ、待って!」
私は佐伯さんを追いかけると同時に教室を出ていった。
配布物を持って教室に戻ると、“転校生”だからか未だに泉水くんの席の周りには沢山の人がいた。
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桃 / 藤咲せせら / 03 ( No.8 ) |
- 日時: 2008/11/23 19:38:10
- 名前: 深月鈴花
- 参照: http://fiestflower.seesaa.net/
- ……寝そう。
白衣を着た教師が、白い指し棒で黒板を叩いている。もうその指し棒が指している文字が何なのかさえわからない。瞼が、究極に重い。 せーらは化学が苦手。それを痛いほど感じることになった。もともと中学のときから反応を化学式であらわせとか、どれが混合物でどれが純物質とか。理科のそういう部類は苦手だった…けど。 どうやら、せーらの本領発揮らしい。……最高に眠い。同じ白衣なのに、あの、養護教論の宮門先生?とどうしてこうも違うのだろうか。あの先生が化学の授業してくれたら寝ない自信があるのに。と、よくわからない文句が頭の中でぐるぐるとまわる。せーらの意識がだんだん眠りの方向へ行っているサインだ。 もう意識が夢の中に完全に浸ってしまう直前だった。せーらの救いのベルが鳴ったのは。 それと同時に頬杖をついた顔が滑って机とガッチャンしたのは…先生に見られてないと信じたい。 起立、といつの間にか決まっている委員長の号令が響いた。
化学が6限目だったから、一応今日の授業は終了。 掃除中に日野さんに居眠りのことを言われた。たぶん、周りの人にはあの見事なまでのドジっぷりを見られているんだろう。
桃色のスケジュール帳を開く。昨日無事間に合った面接の、バイト印はなし。なら、このまま直帰して、晩御飯を作ろう。 そう考えながら、昨日こけた辺りの階段に差し掛かった。入学式早々階段でこけるとか、不運なのかドジなのか。しかもそれを先輩らしき男の人に見られちゃってたりなんかしたわけで…あ。 ……帰ろうとしてた足が止まる。見学行こうと思ってたんだ。 でも、軽音だと決まったわけではないし、どこに行けばいいのかもいまいちわからない。やっぱり、帰った方がいいだろうか。そう思って、溜息をついた。ふと、向かい側の校舎に目をやる。
「あ。」
そのとき、たまたま目に入った3年の、教室に。
―――…いた。
昨日の、ベースのあの人が。やっぱり先輩だったんだ。今まで視力検査で1.5から落としたことない視力が役に立った。 顔の頬が緩んだ。心が、跳ね上がる。 今日もあのベースのケースを背負っている。クラスメイトといくらか言葉を交わして、彼が教室から出て行った。 異性に興味なんて、持たないと思っていたのに。思っていたいのに。 運命なんてそんな大袈裟なものじゃない。一度、見ただけの、本当にそれだけの人。
―――…世の人は、これを一目惚れ、などと言うのだろうか。
歩き出した。名も知らない、彼のところへ。一目惚れじゃない。けれど彼のことを知ってみたい。これは、天の邪鬼?
もうほとんど生徒のいない3年の教室の前。そこに彼の姿はなくて、少し切なくなる。 会ってなにが云いたかったわけでもないのだから、いたらいたで困惑してしまいそうだが。
『…なにやってるんだろ…。』
窓の外の空は今にも雨が降り出しそうで。そういえば、洗濯物も干したままだ。 瞬間、見ていた窓の一部の景色がにじんだ。そして直後、窓を雨が叩き出す。
―――…本当についてない。
こうまで立て続けに地味な不運が続くと、さすがに気分も萎えてしまう。それを振り切るように、走って靴箱まで向かった。…今回は途中でこけることもなく、順調に。 校舎を出ると、雨は本降りになっていた。朝は快晴だったのに。 さて、どうしよう。洗濯物がピンチである。 家は近くとはいえ、鞄の中には貰ったばかりの教科書が入っている。濡れてしまうのは避けたい。……結論、雨脚が弱まるのを待とう。
何分その場所で待っていたかわからない。雨脚は弱まらず、いつの間にか部活が終わる時間になってしまっていた。 傘を差して帰って行く人達を見て、何でみんな傘を持ってきているのかと思う。せーらも天気予報を見てくればよかった。
雨の日は嫌いだ。思い出してしまうから。 ママが天国へ行った日も、彼氏にふられたのもこんな雨の日だった。雨の日なんて好きな人はあまりいないだろうけど、せーらにとってはトラウマの日。雨の日に、どれだけ泣いたかわからないのだから。
部活が終わって帰る人もまばらになったころ、せーらの横に一人の人影。 少し横を見て目を見開いた。
あの、彼がいた。しっかり傘を持って、その傘を開こうとしている。 どうしよう、と思う前に口が開いていた。
「…っ、あの!」
そして、口を開いてから、何を云おうとしたんだろう、なんて考える。 彼はゆっくりこちらを見て、疑問符を浮かべているようで。当然、知らない女子が話しかけたら誰だってそうなる。
「…昨日のこと、なんて覚えてないですよネ…?」
あーもー!せーらのばか!普通におかしい子みたいになってるから!この後先考えずに行動しちゃうのなんとかしないと… 覚えてたとしても、せーらのドジを印象付けてるだけになってるって。
「ああ、階段で…」
ああ、優しい声だな、と思った。この声を聞いた時、正直せーらの顔すっごく赤くなってたと思う。恥ずかしかったっていうのもあるけど、なぜか嬉しくて。
「あ、それだけですっ!あ、あのっ、引きとめちゃってごめんなさい…」 「…別に。」
傘を開いて、帰ろうとしたみたいだけど、せーらの方を見た。あ、なんで帰らないのか疑問に思ってるのか、と解釈する。
「あ、傘忘れちゃって…雨脚弱まるまでここで待ってようカナー…って。」
まあ、待っていて帰るタイミングを逃してしまったのだけど。と思いながら苦笑する。 すると、彼はスッと自分の持っている傘をせーらに差し出した。そして反射的に受け取ってしまう。
「え…?」 「バス停、近いから。」
それは、つまり。
「えっ、そんな、悪いですっ!先輩が濡れちゃいますよ!」
あ、先輩ってゆっちゃったけど。でも、これは、だめだ。 でも、一方の先輩はせーらをちらりと一瞥しただけで、走っていってしまった。
「…っ、どうしよう…」
せーらはその場にしゃがみこんで、火照る顔をおさえた。 名前も知らない先輩から貸してもらったせーらには少し大きめの傘が、どうしようもなく嬉しくて。くすぐったくて。
これは、非常にまずい。はまってしまった、完全に。
……誰、高校に入ったら恋なんてしないって言ったのは!
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黄 / 小野里喜一 / 01 ( No.9 ) |
- 日時: 2008/11/24 03:13:58
- 名前: 色田ゆうこ
- 入学早々、もともと7割くらい埋まっていたケータイの電話帳は限界寸前だ(正直高校の規模の大きさをナメてた)
ついでにそのメールの受信フォルダも爆発寸前だ。
そして更に入学早々、新入生な俺は早くも授業に退屈してそんな飽和状態の携帯を弄くり回している。 メールの相手は昨日、入学式の後に話しかけてきた女の先輩。と、どのクラスか忘れたけど同じ学年の女の子。 中学生の頃父さんに「女子高生か!」とツッコまれた自慢の早打ちで、しかも2人同時なので、最早20秒くらいの間隔で短いメッセージのやりとりをずっと繰り返している。
立てた教科書の陰で指を動かしていると、背中がちょんちょんとつつかれた。後ろの席の金谷だ。 「何」 答えながら、でも指は止まらない。 「誰とメールしてんのー?」 「昨日知り合った先輩と、あと違うクラスの子」 「うへー何っもう上級生たぶらかしてんの! てか2人同時攻略?!」 「たぶら、……別にたぶらかしてねーよ」 思わず苦笑するが、彼は何故かオネエっぽい口調で話を続ける。 「てかさーお前、何、何でそんなに色んな女の子とメールしてんの、ちょっとそのケータイよこしなさいっ! アドレス帳の女の子の名前半分よこしなさい! この際3分の1でも4分の1でもいいからっ!」 「うるっせーな」 男友達には決まってそういう事を言われる。 もともと男の友だちというのは少ないので、俺の中ではそれは『クラスメイト』とか『知り合い』の男子の位置づけを、『友達』にランクアップさせる基準みたいなものにもなっていた。
「てかさーそんなに女の名前入っててどーすんの、彼女泣かないの」 「俺彼女いない」 「えーマジ?! 本命すらいないとか軽蔑するー」 「ちげえよ、別に」 「じゃあそのアドレス帳は何なんですか! そこに入ってる女の子たちは君の何なんですか!」 「話し相手みたいな?」 「うわーそんなホストみたいな……」 「とりあえず友達なの。てか恋愛対象じゃない、女の子は」 「えーっ何それー! ホモ発言じゃん! ホモなの小野里?!」 ひえー、と金谷が怯えるジェスチャーを見せる。もう呆れるしかない。 「ちげーよ」 「じゃあ何が恋愛対象なんだ! いいか小野里、この世には女じゃないやつってのは男しかいねーんだぞ」
"何が恋愛対象なんだ" その言葉に、浮かんできた人影をつい追ってしまう。 ……甘いな、金谷。
この世には、もとい俺の頭ン中には、"女の子"でも"男子"でも無い、特別な存在がいるんだよ。
(とか言ってあっちにとっては違う意味で何でもない存在なんだろーけど…) テレビのリモコンを持った腕を突き出したまま、ぼーっとそんな事を考えた。 夕方と夜の中間みたいな時間帯に帰宅したので、どのチャンネルを回しても面白そうな番組が見つからない。 勢いで電源を落とすと、計った様に携帯がうるさく振動した。メールの着信だった。 「あ、じゅん」 モニターを見てこぼれた声が、1人には広すぎるリビングにやたら大きく響いて恥ずかしくなる。 父さんは今日も仕事だ。俺が帰ってくる少し前に出かけて、それから、朝まで。夜の街で。明日も明後日も父さんは仕事している。 基本的に生活リズムが違うので滅多に顔を合わせない。
生まれてから、ずっと一緒にいた。家族の次に近くにいた。(大袈裟かも知れないけど、親がいつも側にいない俺にとっては、その人たちも家族だった。) そしてこの度めでたいのかそうでないのか、高校も同じになった幼馴染、 小早川隼。 まだ彩高の校舎で出くわした事が無いので、あまり実感は沸いていないが。
彼女からのそのメールの内容は、1人ならメシを食いにこないか、というものだった。
全く、こいつのメールは何でこうタイミングがいいのか。そう思って、ほんの少しだけ頬が熱くなる。…あーうざいあーうざい、自分。
上着を羽織って玄関を出ると、冷ややかな春風が額をかすめていった。
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