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短筆部文集 // 4冊目 (ゆるゆると製作中!)
日時: 2008/04/03 21:19:08
名前: 沖見あさぎ
参照: http://tool-4.net/?mysugarcat

短筆部文集もついに4冊目。フォー!(だまれ)
みんなイベントとか忙しいと思うけど、短筆部も見捨てないでくださいね?

さてさて。
連載も突発もオッケーな自由度高い企画なんだけど、一応ルールは守ってもらわないと。
じゃあとりあえずここでのルール、いきます!(箇条書きで)

・参加できるのは短筆部部員のみ。書きたいよ! って子は、まず入部届け(笑)を出してください。
・台本書き(情景を書いていない文章)禁止。
・文章は文字数がオーバーしない範囲。
・リクを貰ったり募集したりするのも可。ばんばんしちゃってくださいな。
・ギャル文字などは厳禁。誰でも読める文を書いてくださいね。
・一次創作・二次創作どちらでも。ただ、(ないと思うけど)年齢制限のかかるようなものは書かないこと。
・リレー小説のキャラ、自分のオリキャラを出すのは一向に構いません。でも、他の方のキャラを借りるときはちゃんと許可を貰ってからにしてくださいねー!

間違ってもこちらには参加希望などを書かないでくださいますよう。
ではでは、どうぞー!
メンテ

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パパ。あたしは今日も元気です。 ( No.9 )
日時: 2008/06/15 22:21:26
名前: 深月鈴花

お店に飾られた装飾や、腕を組んで歩く恋人達。
真っ白い息が雪と共に宙に舞い、あたしの胸を躍らせる。
そんな雪降る今日はクリスマスイブだけれど、あたしには今から向かうところがある。クリスマスとか、冬だとかそんなのは一切関係ない。
呼び止めたタクシーに乗り込み、あたしは一言告げた。
「三保原霊園へお願いしますっ!」

三保原霊園。幾つもの墓石がたっていて、その墓石の上にほんのりと積もった雪がなんとなく幻想的な雰囲気を醸し出す。
置いてあるバケツに水を汲み、奥へと進んでいく。自分の髪に雪が積もって行くのがなんとなく楽しくて、進む足が軽くなる。
ある墓石の前で足を止めて、バケツもそこへ置く。パシャリ、とバケツの中の水がはねた。
しゃがみ込んで、手を合わせる。なんとなく、会いたくなったんだ。
「久し振り、パパ。」
『パパ』。あたしがそう呼ぶのは、世界でたった一人だけ。目の前の墓石の下で眠る男の人だけだ。
「なかなか会いに来れなくってごめんね?…えっと、あたし仕事頑張ってるよ。」
パパに見てもらえるように、頑張ってるよ。


パパと「出会った」のは8年前。今日みたいな雪の日だった。
別にクリスマスっていうわけじゃない、なんてことないただの雪の日。
テストで思うような点数が取れなかった、という小さな理由で家に帰れなかった。
あたしの「お父さん」は勉強勉強、とうるさかった。だから、家に帰ってテストを見せたらどうなるか…というのは、あたしにも容易に想像することができた。
学校から走って走って、見覚えのない店が立ち並ぶ場所まで来て。このまま家出してしまいたい、と真剣に考えたりなんかした。
ボロボロとこぼれる涙をぬぐおうともしないで、その場にしゃがみこんだ。嗚咽が、呼吸を妨げる。
雪が自分に積もって、肩がふるえ出す。ちらちらとあたしの方を見る大人はたくさんいたが、その瞳は嫌悪を訴えていた。
誰も助けてくれない場所で独りぼっち。
ああ、自分は悲しい人間なんだなぁ、と子供ながらに思った。
それから何分、いや、何時間そうしていただろうか。ふいに自分に積もっていた雪がやんだ。
あまりにも不自然にやんだ雪を不審に思って、上を見た。すると、そこには黒いものが広がっていた。
涙を拭い、しゃんとした瞳で改めて見て、やっと理解した。傘だと。黒い、傘。
傘の柄を持つ手は男のようで、慌ててその手を辿り、顔を捉えた。優しく微笑む男の人。黒いコートを着ていた。若いけれど、紳士のような印象を受ける、物腰柔らかそうな好青年だった。
「…ぁ…」
ありがとうございます、と言おうと思ったが舌が悴(かじか)んでうまくしゃべれない。
それを察したのか、その男の人が持っていた暖かい缶コーヒーを差し出してくれた。ブラックだから飲めないものの、とまどいながら頬に当てていると幾分かマシになっていく。
「あ、あのっ、ありがとうございます…!でもそろそろ、」
動くようになった口ですぐ様お礼を述べたが、言葉が詰まった。「そろそろ帰らないと」という言葉が、出てこない。
帰る?どこに帰ればいいのか。
またこぼれそうになる涙を必死にこらえていると、男の人の唇が少し動いた。小さな声だったけど、確かに聞こえた。
「おいで。」
そう、優しい声で聞こえた。

どこかへ向かおうとしているのか、それとも行き先なんてないのか。
ただ進む歩に、あたしは着いて行くしかなかった。
「君、名前は?」
またもや先ほどの優しい声で言葉を紡ぐ。
「猪岬香美…11才です。」
「家族は?」
前の問いに答えて間など与えないように次の質問が降ってくる。きっとこれは「心配しないの?」という意味の問いだったのだろうけど。
「ママと、お父さんと、お兄ちゃんがいます。」
この答えに疑問を持ったらしく、男の人が小さく首をかしげた。男の人の疑問が手に取るようにわかったから、聞かれる前に答えてしまおうと口を開いた。
「パパじゃ、だめなんです。怒られちゃうんです。お父さん、なんです。

お父さんはパパ、と言われるのをひどく嫌っている。だから、ママと「お父さん」。
「そっか。」
納得したのかしていないのか、そんな答えを返された。それから、にっこりと笑って、
「じゃあ、僕が香美のパパになってあげよう。」
そう言った。
この言葉に、あたしがどれだけ衝撃を受けたか、パパにはわかんなかっただろうね。でもね、嬉しかった。嬉しかったんだよ。
「……パ…パ、になってくれるの?」
「うん。」
パパと呼べば、返事が返ってくる。こんな喜び、今まであっただろうか。
「パパ……」
「うん?」
「パパ?」
「うん。」
「パパ!!」
「はい。」
端から見たら馬鹿みたいな会話だっただろうね。
思えば、パパの名前さえこのときは知らなかった。けれどパパはパパだったよ。あたしにとってたったひとりの「パパ」だったんだよ。
その日からパパとは毎日会って、毎日その日のこといっぱい話したね。テストがあった日はお父さんよりもパパに先に見せて、前より着実に点数が上がっていくのを見てもらって、パパに「頑張ったね」って言ってもらって。
それを同じようにお父さんにも見せて、「もっと頑張れるだろう」って言われて。でも、だんだんお父さんの表情もやわらかくなっていったんだ。

でも、その日はやってきた。
その日、道路の向こう側にパパが立ってて、パパはこちらに向かって手を振った。あたしもそれに向かって大きく手を振った。
すると、パパはとっても儚く微笑んだ。あんなに儚い笑みを見たのは後にも先にも1度きり。あのときだけ。
その次の瞬間だった。パパの体が前のめりになって、倒れたのは。
向こう側の道路がザワザワと騒がしくなる。
誰かが携帯を取り出し、119番を押したのが見えた。しばらくして、救急車がやけに耳に残る音を発しながらやってきた。
時が止まったみたいに、周りの動きがゆっくりになって、あたしは泣き叫びながらパパを呼んだ。

そして、パパは担架に乗せられて救急車の中に運ばれて行った。

それが、あたしが見た最後のパパの姿でした。



くも膜下出血。調べて調べて調べて、パパの家と名前を知って家に初めて家にお邪魔したときに、パパの奥さんに教えてもらった病名。
パパの奥さんは物静かで優しい人で、パパとの関係を必死に話すあたしを見て、にこりと優しい笑みを浮かべた。追い返しもせず家にあげてくれて、お茶とお菓子まで出してくれた。
初めは緊張してたけど、だんだんと打ち解けて奥さんともいろんなことを話した。
と、ふいに奥さんが愛おしそうに仏壇を見つめて、一言呟いた。

「あの人が死んで、もう1年になるのね…」

「………え?」
あたしの口から自然とそんな言葉が漏れた。
………1年?パパが倒れたのは2週間前だ。少なくとも、あたしの頭の中では。
「2週間前が命日だったのよ。知らなかった?」
「…あ、は……い…」
曖昧にそう答えて、その日は奥さんと何を話したのか覚えていない。

パパが死んだのは、1年前だった。
それから何を調べても、パパの家の近所の人に聞いても、みんなそう言う。
パパは、あたしに出会う前に死んでいた。

パパは、あたしに何を伝えたかったんだろう。
今となっては答えを聞くことはできないけれど。
でもきっと……


「香美、ー?」
お兄ちゃんが、向こうの方であたしを呼ぶ。……お兄ちゃんに迎え頼んでたの忘れてた。
「はいはーいっ!…じゃぁね、パパッ!」
にっこりと笑うと、それに応えてくれるかのように優しく風があたしの頬を撫でた。
いつの間にか晴れ上がった空を見上げて、歩く。


パパ。あたしは今日も元気です。






香美の過去のお話でした。不思議な体験というか霊体験というか、そういう話が書きたかった!でも結局まとめられなかった;
うへー、もっともっともっともっと精進したいと思います…!

ちなみに「お父さん」とは今はうまくやってますよ。(何その報告)
メンテ
#01 ( No.10 )
日時: 2008/10/10 22:25:28
名前: 沖見あさぎ





彩高ーっ、最高ー!

…っはい、みなさんこんにちは!
生徒のかわいこちゃん、教師の男前さん、お元気ですか?
4月18日水曜日、昼の放送の時間がやってまいっちゃいまーしたー! いぇい!
…あ、てゆか、初めまして!
今週よりめでたく放送委員となりました、2-Aのきたさた、…北崎紫帆です!
6月10日生まれのおうし座、趣味はダンス!
1年のときは図書委員やってました! サボり気味だったけど。
先輩も後輩もタメの子も仲良くしちゃってぇーくださいな。
そんなわけで今日から私、北崎が昼の放送の担当をすることになっちゃいました。
あんねー私、去年思ったわけよ。昼の放送がつまんねーなって。あ、昨年度の委員の方々すみませーん。
やっぱ放送は声で伝えるわけじゃないですか、つまりラジオと一緒ですよ。
委員はパーソナリティ、生徒はリスナーなわけですよ。
せっかくこんな場を与えてもらってんのに、覇気のない声で連絡事項だけゆって曲流すんじゃーまじつまんないと思うの!
流す曲も歯医者のBGMみたいなクラシックばっかだし?
正直生徒さん、先生方、放送なんか聞いてなかったでしょ? どう?
……そんなわけで北崎、考えました! みんなが聞いてくれる昼の放送をやるって!
はいコレ北崎の今年度の夢です。昼の放送にすべての希望を託す。
…ばかばかしいって? 人の夢を馬鹿にするな!

そんなわけでよろしくね?
あと、今回から流したい曲とか、リクうけつけますーんで。
リクがあれば2-Aのファッションリーダー、北崎にゆっちゃってくださーい。
エグでもミスチルでもバンプでも浜あゆでも徳永さんでもなんでもいっから。

ほんじゃそろそろ今日の曲いってみよっかー。…お、なんかラジオっぽいやん?
んでは今日の曲、井上陽水の『少年時代』です! どーぞ!










竹之は食堂にて友人と学食を食べながら、思った。

「……少年時代って」








‐‐‐‐‐‐‐

ちょっと実験的な感じでやってみました、Pastel Life*の北崎の昼の放送です笑
続くかはわかりません。

 
メンテ
The secret past ( No.11 )
日時: 2008/10/11 11:18:40
名前: 一夜◆KFb2oRyLnqg
参照: http://lovernight.blog44.fc2.com/

どうせなら、過去を忘れてたほうが楽だったんじゃないか。

でも、忘れたままだと激痛という名の剣が甘く美しく私を突き刺してしまうから。

結局はこの運命から、逃れられないのさ。








いくら走っても泣き喚いても、逃れることができない。
身体が覚えているから。あの時、私を包んでいた闇も覚えているから。
 
 「…違う、違うっ、違うっ!私は…私は……なんで、いらないのに…!」

私じゃない私が心の奥底で音を立てるほど揺さぶられている。

 “ここが私の始まりよ。”
 “お前はここで幸せを掴むんだ。同じ過ちは…繰り返さない。”

 “全員、殺してきてやった。”
 “俺はこの力で、もっと強くなる…そう、もっともっと…お前のために!!”

 “…死んだか。例え、我が子でもお前を奪うことは許されない。”
 “許さない…許さない…!!!”

それはただ走馬灯の如く、ただ頭の中で鮮明に映し出された。

 「…ッ!!嫌だ…止めて、止めて……もう充分だから…。」

欲しくなんかないのに、何故過去は私の想いを裏切るのだ。
こんなものを得て、私にどうなれというのだ。…このままだと、壊れてしまう。

 「……嫌だ…なんでよ、どうして私がこんなことを思い出さなきゃいけないんだ…!」

答えなんてないのだ。誰も、教えてくれるはずがない。
なのに、なのに…その声はただ私にだけ囁くかのように響いた。

 “全ては私を辱めた、あの男への復讐のため…―――。”

…復讐。私はただ過去のためだけに利用されるというのか。
涙が静かに、大地を濡らす。あの時のように拭ってくれる人はどこにもいない。
なのに、なんで…。暗闇の向こう側には小さくとも異常なほどの輝きを放つ光。

 「………。」

私が愛した、君。
……やっと、見つけた…―――。



一つの愛が今、過去という名の華を美しく咲き誇らせた。


メンテ
星屑の足跡、繋がる物語(ロマン) ―― 1 ( No.12 )
日時: 2008/10/11 16:11:13
名前: Gard
参照: http://watari.kitunebi.com/

 「清寧(せいねい)学園」。自由な校風で人気が高いその学園は、小中高一貫、ついでに付属の短期大学まで存在している。
 そんな学園に三学期初め頃転入してきたある三兄弟。
 これはその次男の、「星屑」から新たな「日々」へと繋がる、描かれない足跡の物語(ロマン)である。










 風が吹き抜ける屋上。そこに一人の少年が佇んでいた。
 正確には佇んでいるのではなく、ペナントハウスの壁に背を付け、虚空を見つめながら取り留めもないことを考えているのだが、生憎そこには他の人影はなく、佇んでいると言っても過言ではないだろう。いずれ少年はその場から立ち去るのだから。
 少年の目に映っているのは、ただただ青い空と、浮かぶ白い雲。そして空をたまに横切る鳥の姿のみ。他に映るものはない――――――――筈だった。
「どぉも、こんにちは」
 独特なイントネーションの言葉と共に彼の目に映ったのは、黒い短髪と黒い瞳の、何処にでもいる日本人の青年だった。
 いきなり音もなく現れた青年に対し、少年は驚いてペナントハウスから背を離すと、急いで青年から距離を取る。それは長年の癖だった。
「嫌やわぁ、そないな態度取られると傷つきますやん」
 関西弁とも微妙に違うその発音に、少年は訝る。この男は何者か、と。
 例え取り留めもないことを考えていたとはいえ、屋上と校舎を隔てる扉が開く音がしたなら気付くはずである。少年は休日の殆どを、小競り合いの中に身を置くことで過ごしている。気を緩め、警戒を怠ることは自殺行為であると身体に染みついてしまっているのだ。
 それなのに唐突に現れた青年。更に言えば、彼はこの学園の生徒ではなかった。明らかに部外者。それなのに、こうして校舎の、しかも屋上にいる。
「…………あんた、誰だよ」
 少年が絞り出した言葉に、青年は心底意外そうな顔をする。
「変やなぁ。もう気付いてはると思ったんやけど」
 何を、と言いたかった。けれど少年は口を開くことを躊躇する。
 内側から登ってくる不可思議な感覚。言うなれば既視感。口を開いた瞬間、それが外に漏れだしてしまうと思ったのだ。そして、そうなることを少年は無意識に恐れている。
 何故なら、それが外へと出てしまった瞬間、少年が少年でなくなってしまうことを、彼はよく知っていたからだ。
 ふむ、と青年は軽く手を顎に当て、何かを考えるような仕草をしながら少年を頭の先から足の先まで眺める。値踏みをするようなものではなく、ただ純粋に。
「何を恐れとるん?」
「恐れてなんか、」
「変化を恐れとるんか?」
「だからオレはっ、」
「それとも変質を恐れとるん?」
「っ人の話を、」
「せやったら無駄な話やな」
「お前っ、」
「オレ達は、」
 青年は少年の言葉を無視しながら言葉を紡いでいく。
 そして最後に、言った。
「オレ達は、最初から変質している」
 それまでの独特なイントネーションが外れた言葉。その言葉に、少年は思いきり目を見開いた。
 最初から変質している。その言葉が指しているモノが、少年には解っていた。けれど、その言葉を肯定してしまうわけにはいかなかった。
 口を固く閉ざし、青年から顔を背ける。
 それでも少年は青年から逃れることは出来なかった。
 再び青年の口が開く。
「なあ、いつまで偽り続けるつもりやの?」
「…………」
「自分を、他人を、周りを。偽り続けて何がある言うんや?」
「…………」
「全てを偽って、感情を偽って、隠して、押し殺して。それで何を手に入れる気やのん」
「……………………ぃ」
「時が来るまで自分を騙すつもりなん? それで何が楽しいん? 罪悪感がそうさせとるん?」
「………………さい」
「せやったらそないなもん、」
「五月蠅い、黙れ! 貴様に何が解る! 喪失を恐れて何が悪い!」
 青年の言葉に、遂に少年は口を開いてしまった。
 その剣幕に怯えることも怯むこともなく、青年は彼を拒もうとする少年の腕を掴み、更に言葉を掛ける。
 憐れみではない。同情ではない。そんなモノを少年は欲していない。
 故に、青年は自身が思ったことを少年へと伝えていく。
「解らねぇよ。解るわけがねぇ。オレはお前じゃない。お前もオレじゃない」
「なら、ほっといてくれ」
「それも考えた。けど、喪失を恐れすぎて、そうやって押し込めるのはお前らしくない」
「……お前に、何が解る」
「それだけは解る。お前はいつも前を向いてきたのを知ってるから。…………なあ、失うのが怖いのは、お前だけじゃないんだぜ? リク」
 青年は少年の名を呼ぶ。ほんの少しだけイントネーションが違うものの、何故自分の名前を知っているのか、と少年は疑問の視線を青年に向けた。
「オレだって怖い。今だって怖い。あんな風に失うのは、嫌だ」
 けれど返って来たのは疑問の答えではない。それでも少年にとって、それは答えと等しいものだった。
 腕を掴まれたまま、少年は青年を見つめる。少年の瞳には、先程の感情の爆発のような激しい色はもう宿ってはいない。ただ静かに青年を見つめているだけだ。
「でも、それでも、偽って手に入れたものは、絶対に喪ってしまうから。だから…………リク、気付いているならもう、偽るのは止めてくれ」
 少年の腕を掴む青年の手に、痛いほど力が入る。それを感じながら、少年は無表情に青年を見つめ続けた。
 暫し見つめ合い、青年の瞳に嘆きの色が浮かんだところで、少年は口を開いた。
「………………………………キョウ、痛い」
 少年の発した言葉にきょとん、とした青年は、すぐに自分が掴んでいる少年の腕のことだと言うことに気付き、慌てて手を離す。少年の腕には、しっかりと手の跡が残っていた。
「わ、悪ぃ、リク…………」
「別にいいけどな。……お前に説教された方がよっぽどイタイ」
 やれやれ、と肩を竦め、少年は屋上の床に座り込む。それにつられるようにして青年が座り込むと、少年は重苦しい溜息を吐いた。
「オレ、随分凹んでたな」
「…………せやね。まあ、力の暴発で生みの母親殺してもうたら誰でもそうなるんとちゃう?」
 少年の言葉に相槌を打った青年の発音に、少年は異議を申し立てた。
「ところで何なの、そのエセ関西弁。今度はどんなことになってるわけ」
「あー…………それはまた、今度って事で。今日はお説教で終わってもうたな。明日、お前の部屋に行くわ」
 それだけ言うと、立ち上がって青年は軽く手を振る。
 そしてその姿は、まるで夢幻だったかのように瞬間的に掻き消えた。
 屋上に残されたのは少年一人。
「…………オレの部屋ぁ?」
 とりあえず、少年――――――――保科陸と青年――――――――黒部小太郎は、どうやら明日もまた会うことになってしまったらしい。
メンテ
ソプラノののちのコイスルオトメ ( No.13 )
日時: 2008/10/11 18:44:04
名前: 深月鈴花
参照: http://fiestflower.seesaa.net/



―――あの日届いた恋の魔法は あなたの中できっと消えたの

「俺と、付き合ってほしいんだけど。」
もちろん喜んで。大好きだった、3つ年上の彼がそう言った。

―――出会ったあの頃の夢を探す 意味のないことだってわかってる

今でも未練なんていっぱいで、携帯の電池パックに張り付けたプリクラすら、まだはがせないまま。

―――もう少しだけそばにいたいと あの時なぜそう言えなかったの

そばにいてそばにいて。行かないでどうか彼女に会わないで。会わなかったらきっとあの言葉を聞くこともなかった。

―――遮るようにも聞こえた4文字 言わないでと願ったのに…

『さよなら』


‐ソプラノののちのコイスルオトメ -


初恋は小学2年生のころ。3歳年上の幼馴染の彼に恋をした。
けれど彼は転校してしまって、もう2度と会えないんだろうなあ、と子供ながらに思ってた。

けれど運命の再会は月日流れ6年後にやってくる。中学2年生のころ。
きまぐれで行った高校の文化祭で、彼は優しいラブソングを歌っていた。私はすぐに気づいた。
先に声をかけてくれたのは彼で、また6年前の気持ちは消えてなかったんだなって、もしくはまた生まれたんだなって思った。
その2ヶ月後、彼は私に「俺と、付き合ってほしいんだけど。」ってそう一言だけ言ったの。

手を繋いで歩いた。二人でプリクラもとった。学校で、年上の男と付き合ってるって噂されても平気だった。彼が好きだったから。二人なら大丈夫だと思ってた。そう信じてた。

なのにどうして。
「ごめん、クラスメイトの見舞い行く約束してるから。」
雨が降る…あれは冬の日のデートのときだった。

―クラスメイトって男のひと?それとも女のひと?―

そんなこと聞いたら嫌われると思ったから、ばいばいって言った。
あの問いを、私がもしもしていたなら彼は「女のひと」って答えたのだろうか。

聞かなくてもわかるよ。あのひとなんでしょう?
松葉杖をついた、綺麗な女のひと。
数日後、用事があるからとデートを断った彼が支えながら病院から出てくるのを見た。
笑い合ってたね。手も、繋いでたね。
浮気ならもっと私が絶対来ないってところでしてほしかったな。その病院が、私のパパが務めてる病院だって、きっと彼は知らなかったのだろうけど。
それから『さよなら』まで時間はかからなかった。

「お前みたいなガキ、誰が相手にするんだよ。」

ならあのときどうしてあんなことを言ったの。聞きたくても声が出ないのはきっと私の嗚咽の方が勝ってるから。
さよなら、もうどうか絶対私の前に姿を現さないで―…


*

1年後。


私は目の前の全身鏡の前で自分の姿を確認した。軽いウエーブをかけた髪が、少しだけ揺れて、なんだかくすぐったかった。

「それじゃあ、行ってきますっ!」

私がそう言ったのはママの写真に向かって。
もちろん行ってらっしゃい、という言葉はない。

――高校生になったら恋はしないと思う。あんなに苦しむのはもう嫌だから。きっと体が、心が拒否するから。

家の扉を閉めた。カギをしめてゆっくりと歩き出す。
高校、と呼ばれる場所へ。

耳から延びる白いイヤホン。それにつながっているのは私の携帯。
聞こえるのは、今の私とあまりにも反対の曲。


―――ゆっくりと ゆっくりとこの手を導いて
   あたしと あなたの 素敵なメロディ
   好きだよ 大好きだよ どこまでもいっしょ
   恋するあたしには あなただけなの


少しだけ自分を笑って、私……藤咲せせら、ううん、せーらは少しだけ見えてきた高校に心を躍らせた。
ふいに、横断歩道を渡った自転車がせーらを追い越した。

*

せせらはまだ、この場所で、少し不器用で、とても優しい「あの人」に恋をすることを知らない。
……詳しく言ってしまうと、たった今自転車追い越したその人なのだが……
その事実はきっと、今この小さな物語を目にしたあなたしか知らない。



――――――――――――――


(使わせていただきました:いきものがかり「ソプラノ」
              いきものがかり「コイスルオトメ」)


――――――――――――――

テンションあがりすぎてやっちまいました★(←)
意味わかんなくて申し訳ないです…!

まあ、もう、なんていうか…本編楽しみだー宣言でした。(!)
メンテ
新学期前日 ( No.14 )
日時: 2008/10/11 22:42:52
名前: 飛亜





「こんにちはーっ」
「あ、綺羅ちゃん!今日も渉さんの晩御飯持ってきたの?」
「はいっ!」

ここはアクセサリー会社「SUNSHINE」。アンティーク風、ゴスパンク、パステル系、姫系etc。
いろいろなアクセサリーをデザインし、製造して販売する。


わたしのお兄ちゃんが経営する会社…。


コンコンと、社長室のドアを叩く

「お兄ちゃん?入るよーっ」

ガチャとドアを開ける。目の前に広がるのは…大量のデザイン画。書類。
ノートパソコンに向かってデザインを描いているメガネの男性。

「お兄ちゃんっ!」
「ああ、綺羅」
「大変だよね〜社長さんも」
「大変だけど…その分楽しいことや嬉しいこともあるよ」

ニコリと笑う。よく見れば目の周りに隈が出来ている

「お兄ちゃん徹夜したの?隈できてるよ」
「3日ぐらい寝てない気がする…眠(ねむ)…」
「もぅ…ちゃんと寝なくちゃダメじゃない」
「ははは 綺羅にはかなわないなぁ」

そう言いながらペンタブでアクセサリーのデザインを描く

「新作?」
「うん、今度出すカタログに出そうと思ってるんだ。」
「神月君楽しみにしてるって」
「翼十君の弟だっけ?たしか…12歳のときに両親を事故で亡くしたとか…」
「……でも、ちょっとだけ…明るくなってるよ ストリートバスケに夢中みたい」
「そっかぁ…」
「あ、はい。お弁当」
「ありがと、そこの机に置いといて」
「うん」

コトッと机に弁当を置く。

「あ そうだ。沙羅の見舞い…ちゃんと行ってね いくら仕事が忙しいからって3週間に一度って…」
「分かってる 出来るだけ…たくさん沙羅に会いに行く 沙羅に言っといて」
「…わかった 言っとく」
「明日からだっけ?新学期」
「? うん、そうだけど」
「僕の知らないトコでオトコ作んないでね!そんなことしたらお兄ちゃん許さないから!」
「はははっ、お兄ちゃんったら。それじゃあ、わたし行くね」
「うん」

ガチャっとドアを閉めた。

「それじゃあ失礼します お仕事頑張ってくださいね」

一言告げると、出て行った


「…明日から新学期なんだ…」

灰色の雲とオレンジに染まった空が見える

「ちょっと…楽しみだな…どんなことが起こるのか…」

そう思いながら、人ごみの中へ入って行く


―――赤い炎のような恋が始まるとは知らずに


****
書いてみた。撃沈した…かも。神月君書いてみようかなぁ。
メンテ
Re: 短筆部文集 // 4冊目 (ゆるゆると製作中!) ( No.15 )
日時: 2008/11/03 21:15:14
名前:
参照: http://pr.cgiboy.com/12479521

学校では基本喋らない。
静かな子ぶってみる。
そうしておけば面倒なことはおきない
言葉なんて、言葉なんて、言葉なんて

そんな私にも好きだといえる異性がいた
右から2番目の列の前から2番目に座る男の子。
喋ったことはない。でも私の席から見える後姿が、教室に響く笑い声が好きだった

好きだった、ずうっと前から
好きだったのに、

お昼休み
いつもとは違った場所で弁当を食べようと思った私が馬鹿だった
空き教室。誰もいないと思ったのに、
いたのは彼と一つ下の女の子
見えたのは机をくっ付けて大層仲良さそうに
大きなお弁当を囲む二人の姿
私が二人の仲を悟るには、十分過ぎる光景だった

「あら、ごめんね。まさか人がいるとは」
泣きそうになるのを必死で堪えて、やっと言った一言

「ごめんね」
もう一度理由もなく誤り、その場を立ち去ろうとしたとき

「お久しぶりです!先輩!」
声を出したのは、彼の彼女だった
お久しぶりと言われても私は彼女との面識は無かった。
しかし喋り続ける彼女
「お久しぶりです、何ヵ月ぶりですかね?
あ、そうそう!先輩、ちょっとこっち来てください!」
そう言うと彼女は、私のところまで走ってきて
手をひき、教室の外へ連れて言った

「この辺かなあ?」
2階の踊り場に連れてこられた私は、彼女に一言こう言った
「誰、あなた」
彼女はにこりと微笑み、こう言った
「誰って、先輩の片思いしてる男の子の彼女ですよ?」
私は何故か彼女に苛立ちに近い感情を覚えて
言葉を返さないでじっと彼女を見つめた。
彼女は私が彼のことを好きなのに気付いていた
まあ、泣きそうな顔してたら気付くものだろうと思って
そこは深く考えなかった

「やだあ、睨まないで下さいよう」
彼女はとても女の子らしい声を出して笑いながら言った。
それがまた私をいらいらさせる。

「一応確認しておきますけど、」
また話しだす彼女。今度は少しだけ私を睨んで
「横取りしようとか、思ってませんよね?」
「そう言うの横恋慕、って言うんですよ、先輩」

言葉が出なかった。
横取りしようなんて微塵も考えなかったのに、
何故私は否定しなかったのか
いつもの無口な私が自分の感情を、考えを、上手く言葉にできなかった

「それじゃあ、失礼します。」
彼女はもとの微笑んだ顔になり、走って行っていまった。


学校では基本喋らない。
静かな子ぶってみる。
そうしておけば面倒なことはおきない

面倒なことはおきない。でもいいことだっておきない

ああ、言葉なんて、言葉なんて、


///
お久しぶりです咲です。
もう誰も覚えていない幽霊部員です…!

久しぶりに書いたので駄作です
意味が分からないです
メンテ
Re: 短筆部文集 // 4冊目 (ゆるゆると製作中!) ( No.16 )
日時: 2008/11/03 22:17:29
名前: 飛亜
参照: http://treesweet.jugem.jp/

ガコンッとボールがバスケットの中に入った。

「ナイス神月!」
「調子いいな神月」
「まぁな」
某所。俺、鬼塚神月は仲間とストリートバスケに明け暮れていた。
「そろそろ暗くなるし、帰るか」
「そうだな、じゃーなー神月!」
「また明日ー!」
「おー」


俺が丁度14才ぐらいのときだったか。ストリートに出会ったのは。


当時、俺は自分で言うのもアレだが、結構グレていた。4年前、両親を喪って…嫌というほどの喪失感を味わった。
おまけに左目は負傷だし。眼帯だし。あいつらには嘘つかなきゃなんねーし。ほんとツイてない。

…え?いまはどうしてるかって?
今は彩高に毎日通ってる。といっても殆どサボってるけどな。だってつまんねーし。大体屋上で寝てるか保健室にいる。りおちゃんセンセーはいい話し相手だしな。
偶に授業には出るが、殆ど寝てる。あ、社会は寝ない。公民や地理だったら寝るけど、日本史や世界史だけは起きてる。あ、数学もよく考えたら寝ないな…。


あ、学校に行けてんの兄貴のおかげだし。ちょっとは感謝ってやつもしないとな。
あと皇月もだな。結構癒されてるし。
あの犬も…というか俺が拾ったやつだけど。俺となんか似てたし…。兄貴に頼んで兄弟で育てようって決めて。
ちょっとバカバカしいなって今になって思う。


「…よし、近道だ」
近道である公園を通る。夕方だからか人気がない。
歩いていくと、ダンスのグループらしき人らが通り過ぎた。
笑顔で笑ってて。少し羨ましいと思ったぐらい。


俺は知らなかった。
今通り過ぎたダンスグループの一人のせいで、
俺の人生が狂ってしまうとは。


+++
神月君ヴァージョン。なんだこれ。意味不じゃね?
メンテ
もし君が人間になったら終わる話 ( No.17 )
日時: 2008/11/28 01:38:47
名前: 色田ゆうこ




(早く死んでよって思った)(吐き気がする)
(どんな優しい声も聞き飽きたし)
(聞きつくしたから)

(あたしの人生にお前はいらない)
(お前なんかいらない)

(もういいよ)


(死んでよ。)


 ――――いのちなんか、


(死ね、も、生きる、も、発音するのなんてと
ても簡単な事だよ。簡単すぎるから皆やらな
いんだと思うし、簡単だからこそそれを語る
ことが正義になるんだ。善になる。だから人は
言葉に群がるんだと思うよ。うん、そうだね、
僕たちが語る言葉なんておいしくないのにね。
摂取するにはもうすこし、密度がないといけな
いよね。)
(僕たちは神様じゃないから、言葉を選ぶほ
かなかったのさ。はじめから言葉しか無かっ
た。神様じゃ、ないからね。生きる義務も、
死ぬ権利ももたない)


 ――――いのちなんか、一番どうでもいい
のにね。


(言葉で、名前をつけてしまったから、いのち
が物になってしまって、それで、こんなに無味
無臭なリサイクルが始まったんだと思うよ)



 だから、最後に、一番最後に僕たちは、人
間になってしまったんだと思うよ。


・辞書『矛盾』



メンテ
円環ランドルト // 前 ( No.18 )
日時: 2008/12/26 00:52:00
名前:
参照: http://blackaliceblack.blog116.fc2.com/


古い木製の扉が軋む音をたてて開き、一人の少年が半開きの扉から顔を覗かせた。

「誕生日おめでとう、飛爛」
部屋の置くから聞こえる、少し嗄れ気味な声。
暖かな春の日差しが差す部屋で、肘掛け椅子に座る老人は朗らかに笑った。
「ありがとう、爺ちゃん」
鮮やかな東国の民族衣装を着た少年が、老人―――少年の祖父に駆け寄る。
少年、といっても、今日で十五歳になる。
「式はどうだった、楽しかったか?」
「うん、楽しかった。大人がいっぱいで、しかも皆俺に話しかけるから困ったけどね。…爺ちゃんも来ればよかったのに」
無邪気な少年に、老人の頬が緩む。顔に刻まれた皺が、いっそう深くなった。
「私はああいう人が多いところが好きじゃないからな。…けれどお前の誕生日は、誰よりも嬉しく思っているよ」

少年の生まれた一族は、子供が十五歳になると自立したとして祝いの式が行われる。
古くから続く貿易商の一族の本家ともなれば、両親の各界の知り合いから会社の得意先まで、様々な人が招かれ盛大な式となる。
どの子供も、十五になれば今日の少年のように極彩色の民族衣装を身に纏い、祝福を受けてきた。

そして、もう一つ。
一族の人間しか知らない、次期当主にのみ行われる儀式がある。
「…飛爛。あの話、覚えているか?……昔、今生の別れに、男の装飾品を分け合った男女がいた」
「ん?ああ、知ってるよ?爺ちゃん、いつも言ってるじゃんか。
 その装飾品は時を経て、再びその男女を巡り合わせた、ってやつだろ」
「…そう。そしてその男女が、私たち一族の初代の当主と奥方だ。
 飛爛、お前に…その装飾品を、授けよう」
そう言って、老人は懐から鎖に繋がれた、古い十字架のネックレスを取り出した。
元は金と銀で出来ていたであろうそれは、今となってはくすんでいるものの、当時は相当の高級品だったことが伺える。
「俺、に…?」
瞠目しつつも、その手に手渡された瞬間、少年の表情が喜びへと変わっていく。
「普通ならば現当主、いや、お前の父さんから渡されるものなのだがな…あいつは私が渡したほうが喜びますから、と」
「うん、俺も嬉しいよ…いつも爺ちゃんから、このネックレスの話聞いてたし」
父さんにも後でお礼を言っとく、と笑って、じゃらりと鎖を掴んでネックレスを眺める。
しかし少年が持つ、先代が分け合ったはずの装飾品は、ネックレス一つだけだった。
「爺ちゃん、これ…」
「…そう。先代を巡り合わせたその十字架は、再び離れ離れになってしまった。
 戦渦に紛れて、どこか遠くへ、な。」
「それ、前も言ってたよね。…先の大戦かなにかで、これの片割れを持った人ごと行方知らずになったんだろ?」
「…ああ。しかし、これには人を引き合わせる、巡り会わせる力がある。
 私は、再び会うことは出来なかった…しかし飛爛、先代の名を譲り受けたお前なら、会えるかもしれぬ」

紅 飛爛。それは、先代―――初代当主の名。
先代のように、巡り会わせの力を受けるようにと、願いを込められた、その名。

「…わかった。俺、もうすぐ日本に行くけど…あっちでも、探してみるよ。
 絶対…絶対、もう片方を、爺ちゃんに見せてあげるから」
少年の強い目に、老人は朗らかに微笑んだ。
もうじき春の訪れる、穏やかな日差しが、そこにはあった。


それから数週間後、少年は陸上の特待生として、日本の私立高校へ留学することになった。
老人―――少年の祖父が亡くなったのは、少年が留学して、一年目の夏のことだった。



それから時が経って、少年の十八歳の夏。

「ただーいまー…ってうわ、」
「おかえりなさい、飛爛お兄ちゃん!」
玄関の大きな扉を開けた瞬間、飛びついてくる二つの影。
「ただいま、李花に舜琉。二人とも元気にしてたか?」
「うん!僕ね、背がすっごい伸びて、李花お姉ちゃんを追い越したんだよ!」
「ちょっと、わたしだって!まだわたしのほうが大きいでしょう、舜琉?」
玄関口で少年に抱きついたまま、口々に喋りだす二人の妹と弟を笑ってなだめる。
「こらこら、後で話は全部聞いてやるから、今はちょっと待って、な?
 …父さん、話があるんだ」
少年が向けた視線の先には、廊下の奥の壁に背を預けて佇む人影。
父よりもむしろ少年の兄でも語弊はないくらいの、若い面影の男性。
子供達の様子を微笑ましげに眺めていたが、飛爛の視線に気付くと笑って片手を挙げた。
「…お帰り、飛爛。奇遇だね、私もお前に話がある。」
こっちにおいで、と手招きされて、荷物を玄関に置いたまま父の後に続く。
妹と弟の名残惜しそうな声も背後から聞こえたが、とりあえずこちらが先決、と父を追いかけた。
長く続く廊下で、先を行く父がおもむろに口を開いた。
「…お前ももう、十八か。…日本の高校だと、三年生なのか?」
「ああうん、そうだよ。それでね父さん、日本の高校で同郷の人に会ったんだよ!で、その人が―――」
「―――飛爛」
父の言葉に、はっとしたように喋りだす飛爛を、やんわりと父が制した。
「私もその話には興味があるが…まずはあの方に、してやってくれ」
父に連れてこられた場所は、今はもう使われない、亡き祖父の私室を兼ねていた書斎。
「あの、方…?ていうか父さん、ここって…」
三年前と変わらない、古い木製の扉が、軋む音をたてて開く。


「お前に、お客様だ」


促されるまま部屋に入り、背後で父が外から扉を閉めたのが解った。
何も手を付けず、祖父の生前のままにしてある乱雑な本の山の中で、その「客人」は祖父が愛用していた肘掛け椅子にゆったりと腰掛けていた。

「やあ、初めまして―――かな?紅飛爛くん、」

客人がゆっくりと顔を上げて、にこりと微笑んだ。
「お前…、」
漆黒の髪に、少し古い時代の模様の、民族衣装。翡翠の瞳。


自分と瓜二つの顔をした人間が、そこにいた。



メンテ

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