Re: 短筆部文集 3冊目 (行事があってもマイペースに製作中!) ( No.33 )
日時: 2007/12/16 10:26:34
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参照: http://yamituki.blog.shinobi.jp/

"彼"が動いたのは本当にその瞬間だった。
一発の銃声が辺りに鳴り響き、白い硝煙が銃口から漂う中、それはほんの一瞬の出来事で。
頭を撃ち抜かれるはずだった彼――目標であるアーキュラン・モーリヒィ・ブルドンがかっと目を開き、リエンの持っていた拳銃鮮やかに自分の手に収めた。
その行動に虚を突かれたように固まるリエンを他所に、行き成り状態を起こすとベッドの横に置いてある小棚の引き出しを開け中から何かを取り出した。
その何かの正体が解ったのは、彼がそれをリエンが侵入してきた窓に向かって投げ入れた時。
微かに雲の間から光を送る月のお蔭でそれが何なのか判断でき、同時に驚いた。

――嘘だろ……。

彼が投げたのは手榴弾の類で、ピンを外してから4、5秒で爆発するはずだった。……しかし。
彼は手榴弾が窓を突き破って外に出たことを確認すると、リエンから奪った拳銃でそれを撃ち抜いた。
けたたましい爆音が周囲を賑わせ、それと共に外の喧騒が聴覚を刺激した。

「な、何だ? 何が起こった!」「わからねえ、急に空が光っ……ぐっ、うわっ」「おい! どうした、おい! ……っ」

正直、何が起きたのかリエンには全く理解出来なかった。
ただ気が付いたら外の喧騒も止んでいて、同時に目標の少年が自分の隣から姿を消していることに気が付いた。

――そんな、いつ……。

まだ駆け出しだが、万屋として闇に紛れて行動することには慣れていると思っていた。
危険な仕事を行う時は神経を研ぎ澄ませ集中しなければならないし、だから動く人の気配を探るなど簡単だと。
けれど今、自分の常識を覆す存在がそこにいた。
暗闇の所為で彼の表情は伺えないが、息一つ乱していない。
今度はちゃんと動きを把握できたし、割れた窓から彼が中に戻ってきたことも理解できた。
なのに……肝心な彼の正体が、全くもって不明だった。

まだ若くして命を狙われる少年。
それもあの報酬の額からすれば相当な恨みを買っているのだろう。
そして先刻の人間離れした俊敏性、行動性――銃の腕。
アーキュラン・モーリヒィ・ブルドンと言う名の……

「……まてよ?」

そこまで考えて、リエンはハッとした。
この名前、確かにどこかで聞いたことがあると、そう思っていた。
そして、今張り巡らせた思考、情報が確かならそれは……。

雲が遠慮するように月明かりの道をつくり、照らされた部屋の中で、"黒猫"は口端を吊り上げた。



>>22の続き)