ドルチェキャット! : 帯刀学園 ( No.23 )
日時: 2007/12/08 20:03:04
名前: 沖見あさぎ
参照: http://id29.fm-p.jp/8/ginduki/

「あ、猫だ」

真冬にも関わらずアイスバーをなめていた宵永遊紫は、不意に空いたほうの手で茂みの辺りを指差した。
釣られて夏野瑶廉と近江蒼伊がそちらを見ると、茶色い縞々の尻尾がちらりと見え隠れした。
昼休みの裏庭には三人しかいなかった。普段なら他にも生徒が多数いるものだが、今日は一段と風が冷たいため、みんな外に出るのが億劫なのだろう。
実を言うと瑶廉や蒼伊も裏庭に出るのを渋っていたが、子供は風の子だよ! とわけのわからないことを言う遊紫に嗜められ此処に来ていた。

「やっぱり寒いって、ちょっと夏野先輩、上着貸してよ」
「誰がテメェなんかに貸すかってんだ、バーカ。凍死しちまえ」
「へえ、そういうことゆうんだ? 昨日コンビニに買出し行ったとき、足りないお金を足してあげたの誰でしたっけ」
「………しらねーよ、そんなこと」

吹きすさぶ風に首を竦めながら昼食をかっこむ二人を余所に、遊紫は楽しそうに猫へと近寄っていった。
制服もシャツもズボンに入れていないため、歩くたびに制服のしたの紫色のシャツがチラチラと見える。
彼はかなり大胆な歩き方で茂みへ歩み寄っていたのだが、何故か猫が逃げる気配は無い。
それどころか、遊紫が手を伸ばすと、猫は自分から茂みを出てきた。茶色と白の縞々の身体が見える。
遊紫は慣れた手つきで猫を抱え上げると、瑶廉と蒼伊のもとへと戻ってきた。

「ねえ、こいつ可愛いよ。飼おうかなあ、」

にこにこと笑いながら遊紫が座りこむ。野良猫を見つけると必ず言う台詞だ。
可愛いから、という理由で持って帰ることが出来るなんて、さすが天下の宵永財閥御曹司だな、と蒼伊と瑶廉は卑屈な気持ちになる。
そういう二人も特に貧しい家庭で育ったわけではないが、宵永の名に敵うほどではない。

不意に猫の喉を撫でるのをやめると、遊紫はついと顔を上げた。
いつの間にかピンク色のアイスは彼の口内に消え、棒だけが彼の手の内で弄ばれている。



「そういえば、今日、部活に新しい奴が入るんだって」



40分の休み時間の終焉を告げる鐘が、無機質に鳴り響いた。