(心に穿たれた傷穴を、癒すものはなにもなくて) ( No.16 )
日時: 2007/11/19 18:19:40
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参照: http://www.geocities.jp/akatukiquartet

[ Chapter.1-2 ]


「・・・・・・・・・・何、眞子先輩」
「あーもーやだなぁカレンちゃん、そんな怖い顔しないでーっ?お姉さん怖いー」
「・・・・・・・・・・・・殴り飛ばして、いいですか」
思いっきり顔を不機嫌に歪ませて暴言を吐く、想像とはあまりにかけ離れた少女の姿に鈴人の思考は一瞬フリーズする。

(ちょ、ちょっと待てよ・・・・・?)

本来なら、今日は「清楚系」の日。
にこやかな笑顔を浮かべて、絵に描いた大和撫子の様に大人しくしているはずだった。
「・・・・・・・・・それで、何なんですか?別に意味無いとか言ったら怒りますよ」
「やだなー、ちゃんと意味あるからね?あのね、この人がカレンちゃんと話したいんだって。ね、鈴くん?」
明らかに好奇心と悪意の込められた笑顔を浮かべて、眞子は言う。
カレンはうざったそうに鈴人を見て、それから面倒臭そうに言った。
「・・・・・・・・・・・・・何、」
「え、えと・・・・・」
東洋人離れした端正な顔立ちの瞳に射竦められ、鈴人はどもりつつ言う。
「・・・・・何で、いつも違う格好とか性格とかしてるのかなー、って」
放たれた言葉に、カレンは一瞬動揺したような素振りを見せてから、無表情になって唐突に席を立った。
鈴人を見下すように見て、嘲笑のような笑みを浮かべて。
「さぁね?<愛想の良い性格の私>の時にでも聞けば、解るんじゃない?」
言ってから、足早に教室を出ていく。
吐き捨てるように言った言葉は、まるでカレン自身に向けられた自嘲のようだった。


「・・・・・・・・・・眞子さん、あれ・・・・・」
「・・・・・あれが<本性>、いや<四条院眞子に見せる、本性と偽った性格>、かなぁ?
 あの子、あたしにはああいう態度なのよね。・・・・・・本性かと思ったけど、あれさえも偽ってるのかもね?」
含んだような笑みを浮かべて、眞子は言う。
「吃驚した?でも驚いたのはこっちよ。いきなりカレンちゃんの核心突くんだもんね、鈴くんってば」
核心、という言葉に疑問を浮かべる鈴人に、眞子は言い聞かせるように呟く。
「・・・・・・決まってるでしょ、この学校、いやこのクラスに在籍している人よ?
 変な言動や奇行があったんだとしたら、原因は決まってるわよ。・・・・・・・・・・・過去のこと、よ」
はっとなった鈴人に、眞子は「馬鹿ね、」と呟いて。
窓の外を見やり、目を細める。
「あの子も何かあったのよ。何か辛いことが、あったのかもしれないのよ。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・あんたとあたしみたいに、ね」


―――――――私立彩崎(さえざき)高校。
声優・俳優を目指す<芸能科>、調理師やパティシエなどを目指す<調理科>。
その他にも<服飾科>や<美術科>などの専門職を目指す科が中心となっているこの高校で、一つだけ異彩を放つクラスがある。
―――――それが、<総合科>。
学年ごとに一クラスずつあり、単位制で高校卒業資格が取得できると銘打っているこの科。
しかし実態は、高校中途退学者や登校拒否児、その他数々の理由で普通の高校に通いにくい生徒を収容している。
赤塚鈴人・嵯峨雅カレン・四条院眞子は、その総合科である1年A組に通っている。

「―――――――――<過去を聞かない>、<過去に触れない>、<過去を詮索しない>。
 総合科で三年間穏便に仲良く過ごす為の最低限三か条、忘れた?」
「・・・・・・・・・すみません、」
俯く鈴人に、眞子は肩を竦める。
「あたしに言わないでそれはカレンちゃんに言ってよね。・・・・・まぁあたしも、訊きたいと思ってたのは確かだけど」
「・・・・・・そう、なんですか」
「・・・・・・・・・・まさか、あそこまで動揺するとは思わなかったけどね。
 この学校で有名になるほどの事やっといて、いざ正面きって訊かれるとああいうリアクションするとは」
事実カレンの<外見を着る>と形容される行為は学校中周知の事実であり、けれど総合科の三か条の掟の事もあり誰も触れないでいた。
「入学してきた当初は色々ありもしない面白い憶測が飛び交ってたんだけどね?
 身長170近くあるから迫力あるし人寄せ付けない雰囲気出してるし無愛想だし。
 数ヶ月もしたら、皆あまり気にしなくなってきたのよ」
――――――――――「総合科の子だから」、と。
「・・・・・・・・・・・・・知りませんでした」
「しょうがないわよ、鈴くん転校生なんだし」
鈴人は二学期の途中から編入し、一ヶ月経つ。
カレンのことはクラスで見ているのと少しの噂で知っているだけで、事情は殆ど知らないに近かった。
目の前の少女、四条院眞子の事も殆ど知らないに近い。
昔何らかの事情があって、一年ダブって鈴人達より一歳年上なのに同じクラス、だということだけしか。
「・・・・・・・・・まぁ大丈夫よ、明日からまたあの子皮被るだろうし。
 ちょっと確執が残るくらいよ、心配ないわ」
わざと明るく言う眞子に、鈴人は力なく微笑んだ。


>>15の続き)