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HunterSoul -133-
   黒龍伝説 * 02 * 「狩りからのラブレター」


 海。青く深く、暗い場所。日の光は遥か遠くで揺れるだけで、ここを支配するのは、深い深い青をたたえる水たちだった。空を映し出し、海底で混ぜ合わせた青はどこまでも深みを帯びて、母なる世界の暖かさに抱かれる。そしてそれは、反面、いち生命体の力では、到底止めるだけのできない、強大な力を振るい、世界に断罪の罰を下す。
 風よりもはやく、強く、すさまじい勢いで流れる海流のなか、シャンは立っていた。まるでこの世界から切り離されたかのように、横から殴りつけるように流れてくる海流の力を、まったく感じない。呼吸もできる。
 そのままぼうっと、あの流れのなかで立っていることもできたが、どこからか、独特の振動が伝わってきて、シャンは静かに海の濁流から抜け出した。ごうごうとうなる海流の外は、それに流されていく、余波のような海流があり、そこから再び抜け出せば、そよ風のような、ゆるやかな流れしかない、静かな海に出た。あたりは果てしなく続く、濁った青。他には何もない。実際には、多くの生命が周囲で生きているのだろうが、こんななかに放り出されてみれば、それは一面の無も同然だった。
 なにもない。
 だけど、なにかが呼んでる。
 遠くから、海水を震わせて、なにかが啼いているようなかんじがあった。海流のなかでもそれを感じていたシャンは、まるで呼び寄せられるかのように、海の震える方向に向かって、泳ぐように移動した。動いた拍子に感じるはずの、水の抵抗も、温度も、なにも感じない。まるで世界を客観的に浮遊しているかのようだった。
 海中をいくらか進めば、そびえ立つ崖のような岩場にたどり着いた。深い青は、そこではセルリアンブルーに変わり、日の光は澄んだ水を突き抜けて世界を照らしている。決して浅くはない海底の、さながら楽園のような場所。シャンにはそう感じられた。
 呼び声は、その崖を伝うようにして響いてきた。――あっちか――響き渡る崖に沿うようにして、シャンは進んだ。崖伝いに聞こえてくる声は確かに近づいてきていた。ここまで近づけば、声は単なる呼び声ではなく、歌のように、海全体に響き渡っているのだと感じる。心地よく、なつかしい響き。ここが海だからなのか、それとも、この先にいる、歌声の主に覚えがあるのかは、分からない。ただ、こみ上げてくる懐かしさは、シャンの本能が発しているものだった。
 頂上の見えない崖の周囲をぐるりと回るようにして進むと、ふいに、ぽっかりと、穴が開いた場所を見つけた。海底から数メートル上まで、大きく岩が口を開いた場所は、どうやら洞窟になっているらしい。海水が、まるで小さな風のように、洞窟のなかに吸い込まれているのが分かる。セルリアンブルーの海は、その洞窟だけが、また深く鮮やかな青を帯びていた。
 歌声は、このなかから響いている。
 シャンはそれに誘われるようにして、洞窟入り口の正面まで移動した。巨大な穴の中央に立つようにして、なかを覗き込む。歌声が、一瞬だけ途切れる。
 洞窟のなかには、広い空間いっぱいに、なにか黒い影があった。巨大なそれからは、相手にその気がなくても、強い気配が伝わってくる。シャンは静かにその影を見上げた。歌声が、再び始まる。今度は、シャンになにかを語りかけるような声だった。響き渡るそれとともに、影はゆっくりとまぶたを持ち上げ、その双眸が、シャンを見据える――。

 瞬間、ごうっと海が暴れた。

 海流の渦に、シャンはとっさに両腕で顔をかばった。とたん、ぐるりと身体が回転する感覚がして、はっと腕を離す。――そこはもう、広大な海ではなかった。
 ごうごうとうなる熱気。噴き出し、流れるマグマ、ガス。真っ赤に照らされた世界が、そこにあった。――火山……?――海とは対極の地に、シャンはあたりを見回す。と、そこへ、地面から、業火とともにマグマが噴き出した。一瞬だけ、視界が真っ赤に染め上げられる。だが、彼女は身を守ろうとも、驚きに目を閉じることさえも、しなかった。それよりも強大ななにかに引き寄せられるかのように、火の壁の向こうに、無意識のうちに、目を向ける。
 炎の壁が、ゆっくりと崩れていく。その向こうにあったのは、高くそびえる獄炎の山と、そこに君臨するかのように立つ、黒い影。海で見たものと同じように、強く大きな、影。双眸は同じように、シャンを見据えていた。

 再び、火の壁が視界をさえぎる。――遠く、近く。咆哮が響いた。

 耳をつんざくような爆音と閃光。いかずちが轟いた。空一面に広がる黒雲が、時折、金色に輝く。その雲海の中央に座す、広い空間。古い建造物、おそらく、塔のようなものだろう。
 空のなかを、落下しているのだろうか。ひゅうっと耳元で啼く風に、思う。古塔から、ほんの少し離れた上空に、シャンはいた。だが、命の危機を感じることはなかった。――先ほどと同じように、強い光を帯びた双眸に、貫かれる。
 塔の開けた空間には、もともと、天井のようなものがあったのかもしれない。大半が崩れ落ちたうち、わずかに残っている石柱の上、天空を統べるように立つ、白い影があった。
 白い影が、高く吠える。雷雲が、それに呼応するかのように、赤く輝いた。

 赤い稲妻が、落ちる。空を裂くそれが、シャンの視界を、赤で包む。

 光が晴れたとき。シャンは城門の上に立っていた。赤黒い雲が、空を一面に覆っている。今度は雲のなかではない。ちゃんと、地上だ。背後には、戦場が広がっている。
 だが、シャンはあたりを見回して、その風景を観察したりはしなかった。まるで、自分がなにかを待っているかのように、空の一点を、じっと見つめている。強い気配が、こちらに向かってきているのを感じる。これから自分は、それと戦うのか? ぼんやりと自問してみるが、嫌な気にはならなかった。むしろ、楽しみでならない。――狩りの血が、さわぐ。

 そして、漆黒の影が、遥か天空の果てから、シャンを見据え、迫ってくる――。

      *

「ピピイッ!」
 いまだかつて聞いたことのない、鳥類の悲鳴を、突如、聴覚が捕らえた。いったいなんなのだろう? 疑問に思うと、同時。寝返りを打ったこめかみに、小さくてもこもこした塊がヒットした。
「――った!」
 瞬間、毒づいて、ぶつかってきた小さな塊をひっつかむ。がばっと上体を起こし、それが飛んできたであろう、ベッドサイドの窓を振り返った。
「いーかげん起きやがれ! この小娘!」
 先ほどの塊を投げたであろう人物は、小屋の窓に顔を出さずに、日に焼けた、大きな拳を振り上げて怒鳴った。その正体にいちはやく感づいたシャンは、ぎゅむっと塊を握りなおし、窓から顔を覗かせ、腕を振るう。
「わっ、コラ待てシャン! そいつ投げ返すんじゃ……」
「問答無用!」
 ニックは彼女の腕を見、あわてて手を振るが、もう遅い。シャンは渾身の力を込めて、その水色の物体を投げ返した。無論、狙うは顔面。クリーンヒットである。《閃光玉》に《音爆弾》、《ペイントボール》などを投げ続けるハンターは、いつ、なにを手にしても百発百中だ。もちろん、それは彼女も、またしかり。
「ピピイッ!」
 と、再び、あの悲鳴。聞き覚えのあるものに、シャンは首をかしげ、窓からひっこめようとした顔を、再び外へと向けた。「……あ」そこで、気付く。目覚めにシャンが投げつけられたものと、ニックの顔面に投げ返したものが、なんだったのかということに。
「……カナト、投げるな」
「テメエに言われたかねえよ」おそらくあの鳥がヒットしたであろう眉間をさすりながら、ニックはうなった。そんな国王専属ハンターになついていた野鳥は、今ばかりは投げつけられたトラウマから、彼に、いや、投げ返したシャンにすら、近づこうとはせず、一定の距離を保って、空中を飛んでいた。

「……なにやってんだ、お前らは」
 と、ニックの隣から、あきれ返った声。ふっと顔を向けると、小屋の入り口側から、二人のいる窓側へと現れたのは、ルドだった。
「珍しいね、あんたが村に出てくるなんて」
 このルドは、たしか、ポッケ村のハンターとしては、ニックの先輩にあたる存在だった気がする。背がすらりと高く、ルックス、スタイルともに、俳優のようにハンサムだが、ポッケ村の熟練G級ハンター、かつ、《ポッケ村訓練所》の教官長だ。その家は村一番の大富豪で、噂によると、街の社交界にも顔を出しているらしい。
 狩りだけでなく、そういう面でもちょっとした有名人である彼の生活は多忙を極め、ギルドではよく見かけられるらしいが、村のほうに出てくる暇は、ほとんどないと聞いた。
「っ、ピピッ!」
 ルドがため息をつき、言葉を返そうとした、そのとき。先ほどまで警戒心をあらわに、ニックを観察していたカナトが、突然、態度をひるがえし、ニックの肩に飛びつかん勢いで移動した。その目はあからさまに恐怖によどんで、ルドを用心深く見つめている。シャンとニックは互いに瞬きをし、ルドを見た。
「なんかやったの? この子に」問うのはシャンだ。
「は?」一方、ルドの方は意に介さないとばかりに、首をひねり、カナトをじっと見る。だがそれだけでもカナトは飛び上がり、ニックの頭のまわりを、パタパタと飛び回った。
「あー、」そんな二人をさえぎったのは、ニックだ。愛鳥をなだめようと、人差し指にとまらせる彼に、二人の視線が集中する。
「アレだろ、きっと」
「アレってなんだよ?」まずむっと眉をひそめたのは、ルドだ。シャンも焦らすなと視線に込めて、彼を見下ろす。ニックはすがりつかんばかりの瞳でこちらを見るカナトに苦笑し、それから、ルドを見る。
「ホラお前、ずっと前にカナト投げて、壁にくちばし突き刺しただろ? あのあとなかなか抜けなくて、かなり塞ぎこまれたんだぞ」
「あァ、アレか」思い当たったように、ルドは頷き、怪訝そうにカナトを見る。「――って、まだ根に持ってるのかよ」
「トラウマだろーよ」ニックはせせら笑った。「なんたって、いきなりそんなマネしたんだよ? お前、品行方正のお坊ちゃまだろうが」「その言い方はよせ」うなるのはルドだ。それからシャンとニックを交互に見て、言う。「今の状況と、ほぼ変わらんぞ」
「今の状況?」そこで首をかしげたのは、シャンだ。「どう、今の状況だってんだよ?」続くのはニック。と、次の瞬間、ルドは彼に噛み付いた。
「何度起こしても、テメエが起きなかったんだよ! この万年寝太郎が!」
「そうだったか?」が、応対する彼はあっけらかんと頭をかいた。「いやあ、悪ィな。毎度毎度」「テメエ……」
 拳を震わすルド。と、シャンはふと思い当たり、もう少し観察していても面白いところだったが、口を挟ませてもらった。

「ねえ、結局、二人して私になんの用?」
「……っと、そうだった」
 切り替えたのは、ニックが先だった。怒りの矛先が急にそれて、ルドは一度、面白くなさそうな顔をしたが、渋々、シャンを見上げる。その隣で、ニックがポーチを探り、なにかを投げてきた。
 とっさに受け止めると、それが封筒なのだと気付く。だが、シャンが普段見ているクエスト用紙よりも、はるかに上等な紙で、細かい装飾が施されている。くすんだ黒地に、金の刺繍。切手の変わりに、その刺繍で、ドラゴンを模した紋章がある。仰々しい紋章だが、シャンにも十分、見覚えがある。
「――シュレイドの国章」
「差出人を見てみろ」つぶやけば、ニックがそう促してくる。言葉に従って視線を向ければ、金と銀で織り成される刺繍で、流れるような美しい文字が綴られていた。
  ――『シュレイド王国 国王』
 驚きのまま、封筒から視線を上げ、ニックを見る。眼下にいたニックは既に、先ほどまでのニックではなかった。先代ポッケ村専属ハンター、いや、シュレイド王国・国王専属ハンターとしてのニックが、シャンを見上げ、にやりと笑みをよこした。
「国王から、雪国の姫君へ――ダンス・パーティへの招待状だ」
「……それは、楽しそうだね」
 シャンもまた、ハンターとしての笑みを浮かべ、答えた。国章を見た瞬間、どくりと音を立てて、血が全身に巡ったのは、きっと、予感ではない。確信だ。――先ほど見たものは、夢なんかじゃない――。そんな確信。あれは予兆。戦いのみしるしなのだ。

       *

 封筒の中身を取り出し、シャンは首をかしげた。
「《ライセンス》……許可証?」
「そうだ。ま、そんな厳密なモンじゃねえよ。《シュレイド城》に入城する為のモンだと思ってくれ」
「入城許可証だと?」次に声を出したのは、ルドだ。
「国王も、随分と細々したことをするんだな」
「そう言うな」言葉に、ニックは苦笑した。「今のミナガルデは、思ったより荒れてるんだぜ?」
「荒れる? どういうこと?」
「ハンターたちだよ」
 返したニックの言葉は、真剣そのものだった。
「モンスターの異常な凶暴化、古龍の出没。……ついには、《アカムトルム》だ。強大なモンスターたちには、当然、ギルドからじゃなく、国王直々に、ハンターを指名して、向かわせなきゃなんねえ時もある」
 思い当たるのは、先日のシルフィーたちだ。《ミナガルデ》ギルドマスター指名で戦場へ送り出されたハンターたちは、皆、シャンのよく知った面子だったが、彼らの選抜には、やはり、国王の発言も含まれているだろう。そしてもちろん、我こそはと声を上げ、国王やギルドマスターに、己の実力を認めてもらおうとやっきになったハンターもいたはずだ。
「荒れてるのは街の住人じゃなく、ハンターってこと?」
「そういうことだ」ニックは頷き、ふと、書棚から分厚いファイルを取り出し、こちらに投げて寄越した。椅子に腰掛けた状態でそれを受け取り、シャンはぱらぱらとそれをめくって、眉をしかめた。「『ハンター個別データ』? なんでこんなものが」
 今、彼女たちは、シャンの小屋から移動し、ニックの小屋で、それぞれに腰を落ち着けている。彼の小屋のほうが資料も豊富だし、話が進めやすかったからだ。
 シャンの手に渡されたのは、ギルドの登録者から村の専属ハンター、流浪の旅を続けるハンターまで、その個別の履歴や特徴を、細かく分析されたデータだった。そのなかには、もちろん、シャンや、ルド、ニックのものもある。
「今回の俺の仕事が、それだったからだ」
「どういうことだ?」つっこんだのは、ルドだ。答えるは、肩をすくめたニック。
「今回のクエストに参加するパーティメンバーの決定権を、国王はまるまる俺に投げた、ってことだよ。そのライセンスは、俺を代表とするパーティに参加する証だ。俺と、メンバーたちだけが所持し、ぜったいに他に渡ることがないようにしてくれ」
「厳重なんだね」「こればっかりは、予想だにしてなかった事態だからな」ニックは吐息混じりに言った。
「情報は、どこからでもまわるからな。今も、俺の依頼を受けたと偽って、城門をくぐろうとする輩があとをたたねえ。あいつら、城内に入りさえすれば、国王を説き伏せ、なにがなんでもクエストに出ようとしてやがる。あの人が一国を治める王であることには変わりねえが、それでも、俺たちにとっちゃ、狩りの世界を知らねえ、外部の人間だ。たとえあの人であろうと、本気でやってるハンターは、絶対に眩しく見えるもんだ。そんなやつらに、真正面に立たれてみろ。国王は頷かざるを得ない」
「しっかし、なんたってそんなマネを……」ルドは眉をひそめ、うなった。「お前のクエストメンバーに、って、名乗りを上げるようなハンターなら、身の程だって、わきまえられるくらいには鍛えられてるだろう」
「そこまで冷静に、なれないんじゃないかな」
 ぽつっとこぼしたのは、シャンだった。
「こんな状態だからさ。飛竜が暴れ、古龍までもが出てきて。ついにはアカムトルム。……誰だって、そのあとに来るやつの強大さは、分かる。実力のないやつだったら、自分が出ても足手まといだと、思うかもしれない。だけど、そいつがハンターだったら? もし、そいつがハンターだったとしたら。いち人間が動いたからって、なにかが変わるわけじゃない。それを重々承知して、だけど、それでも、なにかせずにはいられない――。自然のなかを駆けるハンターなら、そこまで感じ取れても、不思議じゃないよ」
 ルドは、それ以上なにも返さなかった。ただ、じっとシャンを見つめて、息をつき、「……それで」と、言葉をつなげる。

「さっさと本題に入ろうか。……なんなんだ? 国王が、その専属ハンター……お前をわざわざ使って人選をしなきゃならんクエストってのは」
 言葉に、シャンもライセンスを眺めていた視線を上げて、ニックを見る。ニックはああ、と頷き、ポーチから一枚の羊皮紙を取り出した。羊皮紙、といっても、いつもシャンたちが扱うような、ぼろぼろのものではなく、また、金と銀で装飾された、高価なものだった。彼はそれをまっすぐに広げ、椅子に腰掛けるシャンと、ベッドに腰掛けるルドに見えるよう、二人の中央の床に置いた。シャンとルドは、クエスト用紙に綴られた美しい黒字を、覗き込むようにして追った。
「シャン。お前は俺らよりも詳しいはずだぜ? なんせ、コイツを討伐した伝説の英雄ってのは……」
 はっとしたように、シャンは息をのんだ。
「……ココット村の、村長」
「《ココット英雄伝》か!」ルドも、合点がいったようにつぶやく。ニックは二人の反応を見てから、緊張をにじませた、それでも楽しみで仕方がないというような笑みを浮かべた。
「どうだ、お前ら……シュレイド城の《戦場》で、俺と《黒龍》――《ミラボレアス》を狩る気はねえか?」
 国王専属ハンターは、目の前に座る二人のハンターを見下ろし、言った。その瞳に惹き付けられるかのように、シャンも、ルドも、彼を見上げる。
(ああ、そっか……)こげ茶色の楽しげな目を見つめて、シャンは思考の隅でぼんやりと思った。
(ニック。たしかにあんたは“天才”――狩りの申し子だよ)
 世界を脅かすほどの強大なドラゴンを前にしても、彼はきっと、この楽しそうな瞳の色を変えないのだろう。絶対的な力を前にしたときの恐怖を、彼は既に乗り越えている。そして、その瞳は既に、その先を見据えている。恐怖の先に、ハンターが見るものは、“狩り”だ。この男はまさに、狩りに魅せられ、狩りをも魅せる天才だった。そして彼自身のまとう、ハンターとしての絶対的なカリスマ。それは他のハンターをも惹き付けて、離さない。たとえ、目の前にどんなハンターがいたとしても、ニックならば、恐怖の先にある、“真の狩り”を魅せつけるのだろう。それほどの実力を持ってこその、国王専属ハンターだ。彼が何故、若くしてそれほどの位置につき、それが、この荒れ狂う世にあっても揺らぐことがないのか、そのわけを感じた気がした。
 認めてしまうのは、少し癪だが――今、自分が浮かべた“いつもの”笑みは、この瞳から引き出されたものだ――シャンは挑戦的に笑って、ニックを見つめ返し、先ほどの言葉を繰り返した。
「……それは、楽しそうだね」
シャンのその声につられるようにして、ルドもまた、笑った――同じように、ニックにこの思いを引き出されたと気付きながらも、流れに身を任せようとするような笑みだった――。
「いいだろう。……相手に不足はない」
 笑んだルドを、シャンはじっと見つめた。そういえば彼とは、ともにクエストをしたことはない。今でこそ、訓練所教官を継ぐため、そして、ニックに追いつくために、ほぼ全ての武器を使いこなせるようだが、もともとは、ランス・ガンランスを主とする重量系の武器・防具の、中・近距離タイプだったらしいし、聞くところによれば、クエスト内容が厳しくなればなるほど、やはり、ランス・ガンランスへと武器がかたよりがちだという。だとしたら、今回もやはり、ランスか、ガンランスで彼は挑むだろう。なら、他の要素は? 防具は? 道具はどれだけ使える? フットワークは利くのだろうか? 状況判断力は? 反射神経は? 体裁きのクセは? ――いったん、頭が狩りへいくと、普段は気にならないことでも、次々と疑問として、湧き上がってくる。
 ちらりとルドを見れば、彼もまた、シャンの様子を伺っていることが分かった。

「そうこなくちゃな、二人とも」
 ニックはうれしそうに笑みを浮かべ、書棚から大ぶりのファイルをもう一冊手に取り、そこから数枚の資料を引っ張り出し、クエスト用紙の周りの床に並べた。
「今日は、まあ顔合わせみたいなモンだ。軽い自己紹介でおひらきにしようぜ。……明日、本格的な打ち合わせに入る。だいたいの自分の位置感覚が出来上がり次第、ミナガルデ……《シュレイド城》へ移動して、今度は国王と顔合わせして貰う」
 言うなり、ニックはその資料の上に、金と赤で装飾が施された、漆黒のカードをほうった。
「俺の《王家専属狩猟ライセンス》――まあ、国王専属ハンターの履歴みたいなもんだ。……《ギルドカード》でも、村の《ハント・ライセンス》でもいい。自分の今までの戦歴が一番現れてる、と思うモンを出してくれ」
 言葉に、ルドはポーチからおもむろに、《ギルドカード》を取り出し、ニックのそれの上に投げた。金色のギルドカード。ミナガルデギルド御用達のハンターである証だ。
 シャンもまた、二人の視線を受け、ポーチからポッケ村の《ハント・ライセンス》を出す。峰々に積もった雪のような、青みを帯びた、白銀色のカードだ。
「さあ、始めようか」
 ニックの言葉に、三人は、それぞれの顔を見合わせた。これから、三人のハンターたちの狩りが、はじまるのだ。
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